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4.ウラアルファ〈3〉
「はあっ……はっ……」
肩を上下させながら、全ての欲望を吐き出し余韻に浸っていた。
なんともいえない脱力感の中にいながら、目を閉じ荒い息を少しずつ整えていく。
「良かっただろ?」
「……るせっ」
間近に迫った慶史の唇から紡がれた言葉に、一瞬だけは目を合わせたものの、ふいとすぐに視線を逸らしていた。
どうしようもなく恥ずかしくて、今すぐにでもこの場から消えてしまいたい。
「ほれ、お前の」
唇を尖らせながら、つい先程までの抹消したい出来事を思い出し、またカァッと頬が熱くなっていくのを感じた。
そんな時聞こえた言葉に、何を考えるでもなく視線を向けてみると。
「――っ!!!」
その光景を目にした瞬間、気持ちとしては失神寸前。
「なっ……! そんなもん見せんじゃねえ!! つうかお前! な、なにして……!」
「ん? 見ての通り、じゃねえのかな?」
その手には、未だ見たくもない白濁がまとわりついていた。
言葉にならない悲鳴が唇から飛び出したのは言うまでもなく。
ふざけやがってこの野郎……!
自分から出たもんなんて、一瞬たりとも見たくなんかねえのに……!
「んー……」
「わ!! バカお前!! やめろ!! そんなもん舐めんなっ!!」
だから一刻も早くソレをどうにかしてもらいたかったというのに。
けれど出所が自分からだっただけに、処理しようもなく余り強い態度にも出てはいけない。
なら一体どうすれば、大体どうしてこんな事になってしまったのか、などといつの間にやら延々思い悩んでしまっていた時に、慶史からの声を聞きハッと我に返る。
しかし現実へ帰ってきたのと同時に、また何処か別世界へと旅立ちたくなっていた。
そんな気分に陥ってしまうのも無理はない。
自身から解き放たれた白濁が、慶史の指という指に絡み付いているだけでも気まずいというのに。
チラりと覗かせた舌先によって、挙げ句舐められてしまっていた。
「いつになく必死。今日の響は、すげえ貴重だな」
「いい加減にしやがれ……! 人の気も知らねえで!!」
焦るに決まっている、必死になるに決まっている。
目の前であんなことをされて、冷静でいられるほうがオカシイ。
しかし諸悪の根源である慶史と言えば、呑気に笑みを絶やさないながらも、指の一本一本へ丁寧に舌を這わせていきながら白濁を舐めとっていく。
長く綺麗な指にまとわりつく俺自身から解き放たれたモノ、ピチャりとたまに音を出しながら、それはやがて慶史の口内へと消えていく。
「や、めろっつってんだろっ……」
強烈な光景を網膜に焼付けられて、言葉を震わせながら次第に弱々しくなっていく声。
本当は思い切り殴ってやりたい、しかし今だけはどうにも出来ない。
時折チラりと覗かせる舌が、どうしようもなく気になって。
指先に絡み付いた白濁を見つめる、伏し目がちな視線が気になっていく。
「……!」
──オカシイ。
あれから俺は、何もされていない。
それなのに、何故また体が熱くなっていくのか。
果てたばかりで身体や気持ちが高ぶっているからか。
まず見る事のない慶史の姿を目の当たりにしてしまったからか。
ふざけついでに告白されることは日常だったけど、初めてあんなにもまともに、好きだなんて言われてしまったからか。
「んっ……」
「響?」
全て、その全てが俺を狂わせる。
「おい、響?」
「……見んなっ」
こんなところ、絶対に見られたくもなければ勘付かれたくもない。
逃げるように足下へ視線を注ぎ、背中を小さく丸める。
片手を額に当てて、太股に肘をつく。
この時ばかりは本当に、恥ずかしさだけで死ねるんじゃないかと思った。
「っ……」
今度はどこも触られていなかったというのに、欲を吐き出したはずの自身が高ぶりを取り戻していく。
なんで、こうなんだよ……!
「……俺も椅子欲しいな」
盛っているのは寧ろ自分、となってしまったこの無様な状態。
知らないでいてもらいたいに決まっているが、もう絶対に気付いているだろう慶史を前にして、ますます合わす顔がない。
時間止まってくれねえかな、なんて現実逃避をしたくなる程度には、今の俺は相当イッパイイッパイだった。
だけど当の本人は、それに関して何かを言うことはなく、全く関係がない様なことを言葉にしてきた。
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