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1.ウラアルファ〈4〉
――中二で、一緒のクラスになった。
「オッス、榊!」
「おう!」
季節は夏へ向かう。
衣替えを終えてジメジメとした雨の日が続いた中、久し振りに晴れた今日。
俺はいつも通り教室に入り、すでに来ていた友達と挨拶を交わす。
それは何も変わらない日常のはずで、今日はまた何か楽しいことあっかなあなんて思いながら机に鞄を置く。
次第に強くなっていく日差し、これからまた長い1日が始まる。
「ふあぁ─っ……、ねみい」
室内を見渡せば、それぞれ思い思いに始業時間までを過ごしているクラスメイト。
読書を楽しむ奴、テレビの話題で盛り上がる奴、寝てる奴、様々だ。
「ん?」
そういえば、と思い視線を向けた先。
真ん中の列の一番後ろ、案の定ガラ空きなそこ。
「……」
今朝も遅刻かあ? 高久 響。
「あっちい~! こんな日に体育とか有り得ねえよ!!」
「ははっ! そっか?」
授業も何教科か終えた頃、久々に晴れ渡る空の下でサッカーをしていた。
周りは結構バテていたけど、俺はまだまだいけるぜえ~これからの季節っつったら俺の為にあるようなもんだし。
「後5点は入れる!」
「マジっすか! そんなに入れられてたまっかよ!」
ボールを蹴りながらはりきってやれるとこまで点を入れるつもりの俺。
流石に慌てだした相手チーム、つっても同じクラスだけどな。
勝負は勝負! 俺のチームが勝つぜえ!
「わっ! ちょっ待てって榊! 相田ー! 死んでも守れ!!」
「マジかよ!!」
風に乗って、目の前にはもうゴールしか見えない。
後ろのほうでキーパーに呼び掛けるデカい声、1対1の勝負ってわけだ。
「わりいけど! また入れるぜ!」
「もういらねえし!!」
真ん中で構えるゴールキーパー、どこを狙って蹴るか。
右か? 左か?
「いくぜー! 相田ー!」
「来い! つうかくんな!」
──左だ! ……あっ。
「……高久?」
渾身の一撃、それは逸れることなく狙った箇所へ的確に入っていく。
……はずだった。
「あれ? ボールこねえ」
身構えていた相田から、呆気にとられたような一言がポツリと漏れる。
「あっ……! やっべ!!」
俺の最後の蹴り、直前で思わぬアクシデント。
「高久──!!! よけろ──!!!!」
それは俺の視線の先に、高久がいたこと。
昼が近付いてきた時間帯、昇降口へと向かい歩くその姿。
軌道を変えたボールは、ぐんぐんと飛距離を伸ばす。
真っ直ぐ、高久に向かって。
「……? うわっ!!」
「あっちゃ~……。やっちまった」
テンテン、と音を立てながら高久から跳ね返り地面を転がるボール。
当たる寸前に腕を出したお陰で顔面直撃は免れたけど、やっぱり結構痛いと思う。
「うわっ、よりによって高久に当てたのかよお前……」
「噛みつかれっかもな! あはは!」
立ち止まって遠目から高久の様子を窺っていた俺のとこに、連中が追いついてくる。
そして口々に、ほっとけよとかアイツ愛想ねえし、とか半ばからかうような言葉たち。
「高久! わりィッ! 大丈夫か!!」
周りの声を耳に入れながら、制止の言葉もしっかり頭ん中で理解してた。
だけど俺の足は、もうすでに歩き出していて、それはすぐに駆け足になる。
「おーい! やめとけってー」
高久のもとへ走る俺に、まだ後ろのほうで何か言ってる。
確かに、愛想ねえかもしんねえけど。
誰かが話し掛けたところで大抵無視、いつも独りでどっか遠くを見てる。
そこにいるのに、どこにもいねえみてえ。
「……」
「悪かったな! 大丈夫かよ? 保健室行くかー?」
制服に付いた汚れを払い落としながら、俺の言葉に反応することなく歩き出す高久。
やっとその場に着いた俺は、ボールをそのままに後を追う。
「腕痛くねえ? なあなあ、高久ー」
だけど当の本人は、全く耳を貸さずにスタスタと歩き続ける。
これぞ高久、とりあえず無視。
「お前あんま焼けねえんだなー? て、赤くなってんじゃん。やっーぱ痛かっただろ~、ヨシヨシヨシ」
「!!?」
このままじゃなんの発展もないと感じた俺は、とりあえず高久を引き止めようとしたんだけど。
その時ふと視界に入った、俺の蹴ったボールが当たった腕。
真っ白ってわけでもねえけど、仄かに走った朱がはっきりと分かるくらいの肌の色。
「っにすんだよ!!」
「お。やっと喋った」
躊躇いもなくその腕を掴んで、痛いの痛いの飛んでけーとでも言うようにさすってみる。
そしたらビクッと物凄く分かり易く反応を示した高久。
初めて喋った記念すべき瞬間だ。
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