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2.ウラアルファ〈4〉
「ワリィな~。ほらほら、保健室でも何処でもお供するぜー」
「ふざけんなっ! 離せよ! 俺に構うな!」
「やあだよん」
「!! 離せよ! お前いい加減にしろ!!」
記念すべき瞬間ってのはいいことだ。
けど、高久と言えば俺の手を意地でも離そうとブンブン腕を振ったりしてかなり必死だ。
そこまで頑張らなくてもさー、そんなに俺の手が嫌かねこの子は。
「いてえ? ヒリヒリする? ピリピリする?」
「知るか!! なんともねえから離せって!!」
それでも構わず、歩きを止めて俺の手から逃れようとする高久に話しかけ続ける。
コイツとこんなに会話した奴なんて、たぶん俺が初めてなんじゃねえか?
「だからお前いい加減に……!!」
「榊──っ!!」
「ん?」
そんなことをどこか思いながら高久と仲良くしていたら、不意に俺を呼ぶ声が遠くのほうから聞こえてきた。
「体育終わりだぜーっ集合だってよ!!」
「おっー、分かった!」
クラスメイトからの言葉に、両手をブンブン振りながら答える俺。
もうそんな時間か、やった昼が来る。
……て。
「あっ」
と言って振り向いた時にはもう遅く。
走って行ってしまった高久が昇降口に着いた所で、今更追い掛けてもたぶん逃げられちまうなこりゃ。
「榊──!」
「おーおー、今行くっ!」
再度かかったお呼び出し、とりあえずここは諦めて一旦戻ることにした。
なんだ。
別に普通に喋れんじゃん。
「でさー。そしたらアイツ、マジでビックリしてて!」
「ははっ! マジかよー、オイシイなそれ!」
4限終了のチャイムが鳴って、今じゃ幸せなお昼ご飯中。
思い思いの場所で、気の合う奴らと一緒に飯を食いながら尽きない話に盛り上がる。
教室で適当に机を寄せてパンを食っていた俺、バカ騒ぎするアホな友達連中に笑いながら相槌を打つ。
「そんでなっ、どうなったかっつうとな」
「うんうんうん」
「早く言えバカッ」
「……」
身を乗り出して続きを求める級友をよそに、俺はふと視線を向けていた。
「おい! 榊! お前は気になんねえのか!?」
「ん? ああー、気になんなあ」
相変わらずそこは[[rb:蛻 > もぬけ]]の殻で、鞄すら置かれていない。
教室には来てねえのか? どこ行ってんだろな、アイツいっつも。
「高久っていつもどこでサボってんだろな」
「はあ!?」
「気になるってそっちかよお前!」
俺の素朴な疑問。
そんなことを考えていたもんだから当然上の空で、話にも途中から全く参加していなかった。
そしてごく自然に、出てきた言葉に唖然とする級友。
「どうでもいいじゃん高久とかさー、関わんねえほうがいいって」
「頭いいからってお高くとまってさー、俺らみたいな奴らとはお友達になんかなれましぇん! て感じー?」
「バカがうつる! てな! ぎゃはは!!」
数秒の間を置いて我に返った奴らが、皆口を揃えて捲くし立てる。
その勢いに半ば少し押されつつ、まーまーまーと落ち着かせようとする俺。
「ほっとけって! どうせシカトされて腹立つだけだぜ!?」
「一匹狼なボクかっこいい! つう感じでー」
まあ、そういう風に言ってくるのも分かる。
今年初めて一緒のクラスになって、高久響っていう存在を知った俺。
常に独りでいて、授業には出たり出なかったり。
俺が話し掛けることはなかったけど、女子とかが喋り掛けて思いっきり高久に睨まれていたのを何度か見掛けたことがある。
「で、聞きたいかね諸君」
「聞きたい! もったいぶんなボケ!」
そんなことが続いて、いつしか誰もアイツに近寄らなくなった。
授業受けても寝てるかボケッとしてるかでノートなんてとってねえみたいなのに、なんでか成績はいっつも良いんだよな。
不思議だ、まさにミラクルってやつか。
「おいっ、榊はどうなんだよー」
でも、そんな悪い奴には見えなかったんだけどな。
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