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3.ウラアルファ〈4〉
「わりっ、ちょっと俺行ってくんな!」
「ええ!! 榊!? マジかよオイ!!」
「わりいな! 後で聞かせてな!」
そう思った俺は、パンも食べ終わらない内から立ち上がると走り出していた。
わりいな、話は後からちゃんと聞くから! な!
「つって出てきてもなー……。何処にいんだアイツ」
賑やかな教室を抜けて、とりあえず辺りを見渡しつつ進んでみるものの、高久が何処にいるかなんて全く見当もつかない俺。
大体なんでこんな風に、俺がアイツを探し歩いているのかもよく分からない。
「人気のねえとこって何処だー」
途中だったパンを食べつつ、とりあえず人がいないような場所を目指す。
「ん?」
その時、ふと視線を向けた先には屋上へと続く階段。
「いや、でもなー……」
もしかして、と思ったけどあそこには誰も行かない。
鍵閉まってて屋上になんて出れねえし。
「……」
だけど、なんか気になるな。
誰も屋上になんて行けるわけないのに、どうしてかそこから離れることが出来ない俺。
「ま、一応な」
行っていなかったら、やっぱりなと思ってまた戻ればいい。ただそれだけのことだ。
そう思って、タンタンタンと軽快に階段を駆け上がっていく。
程なくして見えた、屋上へ抜ける唯一の扉。
「閉まってるよなあ、やっぱ」
すでに諦めつつ、開きそうにないドアに近付いていく俺。
そっと手を差し出して、ノブを回す。
「開いたよオイ」
鍵に引っ掛かって途中から回らないはずのドアノブが、俺の予想に反してアッサリと開く。
つうかなんで開くんだ、いつから開いてんだココは。
「うおっ、すげー」
疑問ばかりが頭の中を占拠する。
だけどそんなこと考えてたって俺に分かるはずもない。
とりあえず、初めて屋上に来た俺には、澄み渡る空が物凄く綺麗で清々しい風が吹くこの場所がすぐに気に入った。
こんないいとこだったんだなー屋上って。
「おっ」
最高なこの場を独り占めしてんのは誰だ? なんて思いながら、空へ向けていた視線を戻す。
そして──
「いたいたー。つうかお前だったんだな、ココ使ってんの」
「なんでお前が……」
理由も分からず何故か探していた高久を見つけることが出来た。
勘がいいな、俺。
その張本人と言えば、ここに自分以外の奴が来るなんて思っていなかったんだろう。
かなり目を見開きながら、やっとのことで言葉を放つ。
「あ、お前腕だいじょぶか?」
鞄を適当に自分の側に置いて寝そべっていた高久。
俺がやって来たお陰で飛び起きるはめになってしまった。
「……うるせえよ」
高久に近付いていくと、最初は合わせていた視線をふっと逸らして俯いてしまった。
「お前昼は? 何か食ったのかよ」
「別にお前には関係ないだろ」
「食わないとぶっ倒れるぞ?」
「うるさい!! 俺のことなんかほっとけよ!!」
目の前にドカりと腰をおろして話し掛けてみれば、キッと睨んできた高久と視線が交わう。
口を開けば、ほっとけ構うなうるさい。
なんでこう、頑ななんだろな。
「教室行かねえの?」
「だからそんなことお前には関係ない!」
「なに拗ねてんだ?」
「なっ!」
折角学校に来たのに教室へ行こうとしない高久に、純粋に疑問を投げ掛けてみた俺だったが。
やっぱりどこか拗ねてるんだよなあと思う。
「誰がっ! お前こそヘラヘラしやがって! 悩みのない奴はいいよな!!」
「ん? なに、なんかお悩みでも?」
「!!」
更に話を聞こうと問い掛けてみれば、高久の唇から零れた言葉。
言った瞬間、ついウッカリ余計なことまで発してしまった!! みたいな表情をする分かりやすさ。
何かお悩みがあるらしい。
「別にっ……」
「なんだよ、言ってみろってー。話せばスッキリするぜー? きっと」
「なんでお前なんかに!」
「俺だからこそじゃん」
「はあぁ!? 意味分かんねえバカ!!」
一体何にこんなに卑屈になっているのか、聞き出そうとしてみるんだけどなかなか言ってくれない高久。
こういうのは誰かに話してみると案外スッキリ出来ちゃうもんなんだぜ?
「だって友達だろ? 俺ら」
「!! か、勝手に決めんじゃねえ!!」
俺の口から出たのが意外な言葉だったのか、かなり怯んだ高久。
だってなあ、こうやって話してる時点で俺らはもう友達になれてんじゃねえの?
「ほらほら言ってみ?」
「知るか! 友達なんかいらねえ! 独りでいいんだよ俺は!」
「ん?」
「そのほうがっ……、よっぽど気楽だし……。余計な干渉されなくて、清々してんだよっ……」
「高久? なんの話だ?」
「あっ……。う、うるせえ! なんでお前なんかに……!!」
そう思ったし、純粋になんか興味があったっていうか。
そしたら、頭に血が昇ったのか途中からなんか話が真実味を帯びていった高久の口調。
どこか寂しそうな顔をして吐き捨てるように、でもきっと自分がそんな表情していたなんて気付いてないんだろうな。
「高久」
「……なんだよ」
とかなんとか俺が色々考えていた内に、高久は立ち上がるとサッサと屋上から去ろうとしていた。
でも今度は、呼べば少し躊躇いながらも振り向いてくれた高久。
ほら見ろ、コイツそんなわりい奴じゃないって。
「どっか行こうぜ」
「はあ!?」
「ほら行くぜ!」
「なんで俺が! おい! 離せって!!」
振り解こうとする腕をしっかり掴んで前へ進む。
かなり戸惑っているらしい高久、なににそんなに哀愁漂わせてんのか知らないけど、もっと生きてること楽しんだほうがいいと思うぜ。
力強く引っ張りながら、初めて2人で言葉を交わしたこの場所を後にした。
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