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4.ウラアルファ〈4〉

「なあにすっかなー。どれがいいよ、高久は」 「別に……」 半ば無理やり引き摺るようにして高久を学校から連れ出した俺。 まあいつ教室に戻るかも分からねえんだから今更サボったって何の問題もナシ。 最初は力一杯に抵抗しまくっていた高久だったが、どうやっても無駄だってことが分かったのか渋々俺についてくることにしたらしい。 突発的に決めて出てきてしまったけれど、何処に行こうなんて全く考えてもいなかった俺は内心少し迷った。 「なあんだよ、高久~。まだなんもしてないうちから負けきった顔して」 「なっ……! 誰がだ!」 そこでだ。 よく寄ってたゲーセンにでも行くか! と勝手に内心独り相談して決めて高久と一緒にやって来ていた。 賑やかな音の中、様々なタイプのゲームが立ち並ぶ。 まだ時間的にすいているほうだったけど、それでも平日にしては結構人が入っていると感じた。 隣を歩く高久は、相変わらずふてくされた顔をしていたけれど、構わずバシバシ話を続ける。 「おっ! あれ取れそうじゃん!」 「おい! 引っ張んなよ!」 店内をぐるりと見渡して何からやろうか迷う。 高久はどういう系統が好きなのかなんて知るはずもなかったけど、そこはそう俺がやりたいもんがやりたくなるはずだ。独断により確信。 「お前UFOキャッチャー得意?」 「……しねえよ、そんなもん」 「チャリーン、さあやれ高久」 「はっ!? て、なんで俺が!」 「いいからいいから。アレ取れそうじゃね?」 「取れるわけねえだろ! こんなんやらねえもん俺……!」 そしたらタイミング良く視界に入ってきた一台のUFOキャッチャー。 よくよく見てみると、取れそうな位置に人形が置かれていることに気付く。 アレだ、アレしかない。 またも強引に高久を台の前に引っ張って来て、言葉も聞かずに硬貨投入。 「……どれだよ」 「アレアレ、そこのさ」 「取れるわけねえじゃんっ」 まさか自分が操作することになるとは思っていなかった高久は、突然任されてしまったことでまた怒る。 まあまあ、金返せなんて言わねえから。 「おっ、結構いいとこいったんじゃね?」 「うっ……」 だけどなんだかんだ言いつつも、最後にはボタンに触れて操作し始めた高久。 結構優しいっつうことが発覚。 「おっ! あーっっ!! 惜っしいなー」 「だから言ったじゃねえかよ……」 俺が指し示した人形に向かってクレーンを操る高久。 けどいいとこまでいって、一瞬持ち上がったと思ったら人形は置き去りになってしまった。 残念がる俺の言葉に、拗ねたように唇を尖らし呟く高久。 「仕方ねえなあ。よく見てろよ高久」 「知るかよ……」 俺の出番ってやつだ。 実際自信があった俺は、興味なさそうにしながらもさりげなく見てくれている高久の視線を感じながら1回分のプレイ料金を投入口から落とす。 すぐに息を吹き返したかのように、照明が踊る。 「おーっし! やるぜ!」 軽快にボタンを叩き、位置を見つつ操作していく。 周りには邪魔な人形は何もない、俺に取られるのを待っていたとしか思えない位の場所の良さ。 「あっ」 「な! 取れただろ?」 「……まぐれじゃねえの」 「実力」 やると言ったからにはやる。 気持ち良い位にすんなりと持って行かれた人形が、俺らのもとに滑り降りてくる。 ガコッと音を出しながらそれを掴み、取り出す。 「ほい。やるよ」 「え? い、いらねえよ!」 「なんで? 可愛いじゃん」 手に取った人形をそのまま高久に差し出したけど、案の定拒否の言葉が耳を流れていく。 この人形にも問題があるのかもしれないってことはよく分かる。 「尚更いらねえ!」 女の子が好きそうな可愛い可愛いクマのぬいぐるみだったんだからなソレは。 「あー、じゃあどうすっかなコレ」 そりゃいらないのが当然だよなと納得した俺は、折角取った人形だったけどどうしようか頭を悩ませてみる。 別に欲しくて取ったわけじゃないだけに、持って帰ろうとも思わない。 「置いてくか!」 「えっ……」 それにちょっと、俺にはあまりにも可愛い過ぎる。 そう思って台に置いてこうと腕を伸ばした。 「……貸せよ」 「ん? あー、いいっていいって」 「いいから! 早くよこせ!」 「高久?」 ぬいぐるみが台に触れる直前、この行動を黙って見ていた高久が口を開いた。 俺にはかなり予想外の言葉で、差し出された手が一体何を求めているのかが一瞬分からなくなった位だ。 「いいのか? 無理しなくていんだぜ?」 「いいって言ってんだろ。置いてたって……、捨てられるんだから……」 「高久」 「なんだよ」 驚きながらも、素直にクマのぬいぐるみを差し出す。 受け取りながらまたしても引っ掛かる言葉を放つ高久に、なにをそんなに思いつめているのかが気になった。 「お前ってさ、全然勉強してるふうじゃないのに頭いいよなー」 「い、いきなりなんだよ……」 人形を持ったはいいけどどうしようか迷っているように見えた高久に、突拍子もないことを口にしてみる。 「いや、すげえよなって思って」 「別に……。それにもう、俺が幾ら良い成績とろうが関係ねえから」 「ふーん。なんで?」 「受験に失敗した時点で、俺にはもう存在価値なんてあそこにはないんだよ……」 ずっと思っていたことだし、ただなんとなく今気になったから聞いてみたことだった。 でもそれこそが、高久の核の部分だったらしく自嘲気味にボソリと呟く。 「へえ? 受験に落ちて今んとこに来たわけか」 「……ああ、そうだよ! 文句あっか!」 相対しながら、初めて自分のことを話した高久。 「どうせ失敗作なんだよ……。俺なんか……」 顔色一つ変えない、ように心掛けでもしているかのように。 幾らすました顔しようとしても、俺にはとっくにバレてる。 「失敗作って、なにが基準でなれんの?」 「それはっ……」 成績しか見ない、高久自身に目を向けようともしない両親。 受験に失敗したら、完全に見向きもされなくなった。 「その頭良い学校に行きたかったんだ? お前は」 「俺は別にっ……」 それだけの為に、こんな閉じこもってるなんてもったいなさ過ぎないか。 「別に行きたいとこでもなかったんだろ?」 「……」 聞けば、自分の意志で行きたいと目指した学校でもなくて。 そんなんでお前、今まで楽しかったか? 「良かったじゃん。受験失敗して」 「なっ……! ふざけんな! 勝手なこと言いやがって……!!」 これまでをどう生きていたかとか、なんか色んなことが頭の中に思い浮かんで。 自然と唇から零れていた言葉に、高久が声を荒げる。 ちげえよ、俺が言いたいのはな? 「だってさ、今んとこに入ったから俺に会えたんじゃん」 「!! ……はあっ!?」 自分を指差しながら笑う俺に対して、高久は目を丸くする。 「良かったなー。ま、会うのがちょっと遅れたけどな?」 「全然良くねえ! ふざけんなバカ!」 「あれ? 高久? おーい待てってー」 まあ1年遅くなったけど、ここに来たからこそ俺に会えたってわけで。 そんな学校行ったって、勉強ばっかのつまんねえ退屈な毎日だぜ? 薄っぺらな紙しか見ない親なんて、こっちから願い下げしちゃえばいいじゃん。 絶対落ちて良かったと思うけどな、俺としては。 でも高久の奴は、少し怯みはしたけれどキッと睨み言うだけ言ってサッサと店から出て行ってしまった。 なんか変なこと言ったか? 俺。

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