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5.ウラアルファ〈4〉

「お前も来れば良かったのにさァ!!」 高久とゲーセンで別れてから、早くも数日が経っていた。 相変わらずいたりいなかったりの日々で、圧倒的にサボっている時のほうが多かった高久。 言葉を交わしていないし、視線すら合わせていなかった。 と言うのも。 「マジ弱かったよな、アイツら!!」 「おーおー! 弱過ぎてビビったくらいにして!!」 「へえ、そんなにかよ?」 高久となかなか接触出来ない状況にあるから、なんだけどな。 俺としては、まだまだアイツに聞きたいことや話したいことが山程ある。 高久はどうだか知らねえけど、構われることを嫌がったとしても俺には関係ないってことだ。 「見せてやりたかったマジで!!」 「前とは比べもんにならねえから!!」 「油断しまくり? みたいな! なァ!!」 にしてもこの休み時間、いやこれだけじゃないどの休憩の時もだ。 未だ興奮冷めやらずと言った感じの友達に延々と話を聞かされていた俺。 抜け出そうにも逃がしてくれず、その時いなかったのが俺だけって時点でもう行く末は決まってるようなもんだ。 とりあえず、コイツらの気の済むまで俺には自由がないっぽい。 「でも大丈夫か? そんな派手にやっちまって」 「余裕だろ!!」 どうやら、俺が高久と早退した日に派手にケンカをしてきたらしい目の前の奴ら。 俺もいつもは混ざって暴れてる側だから、こんなにもしつこく引き止められ、あの日の話を聞かせたくてしょうがない奴ら。 「奴等でけえツラ出来なくなるぜー! かっわいそうに!」 そんな黙ってるような奴らでもないと思うんだけどなってことは言わず、余韻に浸らせてやることにした俺。 いつ解放してくれるんだか、俺を。 「あー……、ずっと聞いてんのも結構疲れんな」 結局のところ今日という1日の殆どの時間、アイツらに捕まって身動きとれなかった俺。 そんなもんだから、掃除も終わらない内からコッソリ抜け出して、1人帰ってきたと言うわけで。 「あそこ結構気の短い奴が多いんだよなあ」 いつも連んでいる奴らなだけに、俺にもケンカのお誘いがきそうだよななんて思いながら歩き続ける。 「ふあぁ~……。にしても相当嬉しかったんだなあアイツら」 まあそれはそれで、楽しく過ごせるってもんだろうけど。 「お?」 そう思いつつ、本屋にでも寄ってくかななんて考えながら歩いていた。 欲しいのあったんだよな、そういえばアレってまだ出てねえのかなとか思考を巡らせながら。 「あれって」 なんとなく周りの光景を見ながら足を進めていた俺、そんな時一つの人影が瞳に飛び込んでくる。 アイツ、哀愁を漂わせながら歩く天才なんじゃないかと思う。 雑踏に紛れながらも、俺の視線は正確に前を歩く人物を捉える。 間違うわけがない。 「よおっ! 高久じゃん」 「!?」 確信する間にもう走り出していた俺が高久に追い付くのに時間はいらなかった。 肩にポンッと触れて、驚く高久に笑いかける。 「あれ? おいどうした?」 そしたらあの日はあんなに喋り合ったはずなのに、今日の高久と言えば。 「高久ー?」 キッとひと睨みしたかと思えば、俺の言葉には何の反応も返さずに視線をまた前に戻す。 あれおっかしいなー? 「なに今日はご機嫌ななめ?」 まあだからってハイさようならってそう簡単に離れていく俺でもないわけで。 隣を歩きながら、なんのリアクションもない高久だったけどまあ別にいいや。 「お前あの後人形どうした? 大事にしてなー」 ははっと笑いかけながら、それでも無視を決め込む高久。 んーどうすっかな。 「これからどっか行くのか?」 「……」 「困ったなー、慶史くん1人で喋ってんのも寂しいよなあー」 何処に行くつもりでこんな所歩いていたのかは分からないけど、高久に何か喋らせようと没頭する俺。 「おーい、高久~。高久くん?」 「……」 「ひーびきちゃん」 「!! ふざけた呼び方すんな!!」 「お。響ちゃん気に入った?」 「ちげえよ!!」 普通に名字で呼んでいたけど、そんなんじゃ高久くんは何にも口を開いてくれないわけで。 だったらと、閃いた俺のこの考えに期待通りにのってきてくれた響ちゃん。 ちゃんづけで呼ばれるのは嫌らしい。 「やっと喋ったな、お前」 「……るさいっ!!」 不機嫌を露わに、俺から離れようと足を速める響ちゃん。 「んで? 響ちゃんはどこ行くんだ?」 「だからそれで呼ぶなって言って……!!」 今度は俺が響ちゃんの言葉を無視して構わず呼び続ける。 その姿見てるとなんか、怒らせてんだけどなんか楽しいっていうか。 やっぱそうやってちゃんと表に吐き出してるほうが、俺は良いと思うけど。 「んじゃ俺と本屋デートでもすっか」 「勝手に決めんな!」 腕を掴んでまたぐいと引っ張り歩き出す俺に、一瞬少しよろめきながらもすぐに体勢を立て直した高久。 やっぱり素直についてくる気はないらしく、今日も今日とて全力で抵抗される俺。 「まあまあまあ。どうせ暇だろお前」 「お前と一緒にすんな!!」 人混みを抜けて、近道に路地裏へと入っていきながら高久の張り上げる声が鼓膜を刺激する。 「おい。お前ら」 元気だなーなんて思いつつ、歩き続けていた。 そしたら不意に、後ろから掛かった声。 「ん? ……おっ」 どうやらその言葉は、俺らに向けられていたものらしい。 見れば辺りには、俺たち2人以外に歩いている姿もない。 高久の腕は掴んだままで、立ち止まった俺は後ろに振り返る。 「お前、アイツらの仲間だろ」 「……思ってたより早いお誘いだったな」 そこで口を開いていた奴、頬に絆創膏を貼っていてここ最近にケンカをしたってことがよく分かる姿。 それに、見覚えのある顔だった。 「ナメた真似しやがって! テメエら無事帰れっと思うなよ!!」 数日前にアイツらがケンカしただろう相手。 タイミングわりいぜ、こんな所で出くわすことになるなんてな。 「まあまあまあ、そんな怒んなって」 「おいお前ら! 来いよ!」 とりあえず、隙を窺いながら宥めるように声を掛けてみる。 が、完全にもう頭に血が昇っている。 「げっ」 話をする気なんて更々ないらしく、ソイツはニヤニヤと笑いながら周りに届くようなボリュームで声を出す。 そしたらどうだ、そんなに何処に潜んでやがった? と思わずにはいられない位に、ゾロゾロとガラの悪そうな連中が現れやがった。 流石にこの人数はちょっとキツいな。 それに、高久を巻き込むわけにはいかない。 「やっべえなこりゃ」 「な、なんだよこれ……」 あ、そうだ高久はと思って隣に視線を向けたら戸惑う横顔が目に映る。 立ち止まってる場合じゃねえな。

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