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6.ウラアルファ〈4〉
「行くぜ、高久!」
「お、おい!」
考えてる暇はない。
とりあえず、奴らに捕まったらちょっとやべえなってことだ。
再び腕を力強く引っ張り、高久と一緒にあてもなく全力で走り出す。
それを見た奴らが、一斉に俺ら2人を追い駆け出してくる。
「わりいなっ。本屋は今度行こうぜっ」
「なんで俺までっ……!」
物凄い勢いで追われながら、周りの景色がどんどん変わっていく。
風を切りながら、それでも握った腕は決して離さない。
これじゃ本屋に行くなんて到底無理になっちまったな。
どこかまだ暢気なことを考えながら、身を隠せる場所はないかと走りながら視線を巡らせる。
「はっ……なせよ! 関係ねえだろ俺はっ!!」
「そんなこと言わずに俺と逃げようぜーっ」
うっすらと額に汗が滲んでいくのを感じながら、次第に息も上がっていく。
高久は関係ない、それは確かにそうだ。
でもわりいな、俺と一緒にいるとこを見られた時点で仲間にされちゃったみたいだぜ。
「あっ、そうだ。公園あったよなー、近くにっ!」
たまに後ろの様子を窺いながら、自分たちとの距離を確認する。
大丈夫だ、まだいける。
ペースは落とさずに、人の波に紛れようとまた通りに出ていく。
そしてその景色を視界に入れた俺は気が付く、この近くにデカい公園がある。
木が沢山あって広い、よく犬の散歩や走ってる奴を見かける。
姿を隠すには、あそこ以上にいい場所はない。
「高久! 後もうちょい! いけるか!?」
「ふっざけんな……!」
俺らの味方をするように丁度良く青になった信号をいいことに、歩調を緩めることなく公園を目指す。
陽の光が眩しい、優雅に空を飛ぶ鳥なんかには到底なれるはずもない。
地に足をつけて、全力で逃げ切ってやろうじゃねえか。
「はあっ、はっ」
辿り着くのが早いか、体力が限界に達するのが早いか。
見えてきた公園、深い緑に包まれたあの場所にさえ入れれば幾らでもやり過ごせる自信がある。
「つ、いたーっ!! はあっはっ、あ──っ……」
「はあっ、はあっはあっ……」
滑り込むようにして公園にやっと逃げ込むことが出来た俺たち。
適当な茂みの中に入り、腰をおろして荒い息を整えようと呼吸を繰り返す。
「後はここで隠れてりゃいいってことでっ……」
「はあっ、はあっ……」
ほとぼりが冷めるまでは此処で息を潜めていることにして、高久に話し掛ける。
「はあっ……な、んで俺が……」
頬を火照らせながら、なんで俺がこんな目に遭わなきゃならねえんだよと息を乱す高久。
んーその気持ちよく分かる。
「付き合ってられるかっ……帰る!」
「おいおい。もうちょっと待っとけって」
やってられるかとばかりに、まだ息も整わない内から立ち上がろうとする高久。
「離せ!!」
だけど今黙って高久を出て行かせるわけにはいかない。
きっともう今頃辺りをウロついているだろう奴ら、確実に見つかる。
「なんだよ! 俺に構うなって言ってんだろ!」
「高久、とりあえず落ち着けって」
「俺は落ち着いてる!」
突然こんなことに巻き込まれて、高久自身なにがなんだか分からないのかもしれない。
制止の言葉も聞かず、茂みから出て行こうとする高久の腕を掴み続けながらなんとか思いとどまらせようと宥める。
「こっちのほうに行ったの見た気がすんだけど」
「そこらに隠れてっかもしんねえ。ぜってえ逃がさねえ!」
そうしている内に、追っ手が次第に近付いてきていることに気付く。
やべえな、こっちに向かってきてる。
「今だけは隠れとけって」
「うるせえっ! 俺がどうしようがお前には関係ねえだろ!」
茂みの中でそんな会話を続けながら、葉と葉の間から見た景色に奴らの姿を遠くに捉える。
「こんなことに巻き込みやがって! 最悪だ!」
「高久、なあ高久。落ち着けっ。な?」
周りが見えなくなっている高久は、どんどん声を張り上げる。
足音が近付いてくるのを感じる。
これ以上距離が縮まったら、この声ですぐにも居場所がバレるだろう。
「離せっつってんだろ!」
意地でも出て行こうとする高久、今バレたら逃げられなくなって2人で捕まっちまうな。
まあ高久1人なら、なんとかすりゃ逃げ切れるか?
「なあ。なんか今聞こえなかったか?」
「高久、ちょっとだけ喋んな」
「知るかよ! だから離せ……!」
高久の怒声が、微かに奴らのもとへと届いたらしい。
場所はまだ把握出来てないが、もうそろそろ本格的にやばいかもしれない。
「もうちょいあっちに行けば、ぜってえ場所分かる」
足を速めて近付いてくる姿が見えてくる。
「離せ!! もう俺にっ……!!」
──ダメだ!! それ以上喋んな!!
「響!!」
「──っ!!?」
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