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7.ウラアルファ〈4〉

そう思ったのが早いか、気付けば止んでいた高久の声。 「……!」 突然静かになったことに、居所を掴む手掛かりを失った奴らのイラつく声が耳に入ってくる。 更に俺らのもとへと近付いてきたことを証明する、さっきよりも数段ハッキリと聞こえてきた言葉。 「んっ、ふ……!」 やばかった、さっき高久が最後まで言い切っていたら確実にココがバレてた。 「おい! なんかあっちでそれっぽいの見たって!」 「マジかよ! クソッ!」 突然パタりとしなくなった声に、騒ぎ出していた奴らのもとへもたらされた朗報。 朗報もなにも確実に誤報だけどな。 「んっ……」 バタバタと走り去って行く足音を聞きながら、茂みから出ようと腰を浮かせた高久を一体どう阻止したのかと言えば。 「響……、少しは落ち着いたか?」 「……」 思いっきり高久の腕を引っ張り、芝生に倒れ込んだ体に覆い被さって。 ──自分でも、んなことするとは思ってなかった。 「な? 俺がなんとかすっから。お前はさ、何も心配すんな」 何も喋らせない為にだったのかなんなのか、組み敷いた高久に。 キスしていた。 最初は暴れた高久だったけれど、歯列をなぞりこじ開けた口内へと舌を押し込んだ時には、いつしか抵抗がなくなっていて。 一瞬のことだったのかもしれねえけど、アイツらが去っていくまでの間。 逃げる舌を捕まえて、深く深く唇を触れ合わせた。 「さ……か、き……」 「お。初めて俺の名前呼んだな」 静かに離れれば、微かに瞳を潤ませながら顔を赤くする高久の姿が目に映る。 やっと落ち着いたらしい高久、でもまだどこかぼんやりしている。 髪を撫でる俺の手を振り払おうともせずに、間近で交わるお互いの視線。 そんな時にボソッと呼ばれた名前が、なんかすげえ嬉しくて。 俺の名前ちゃんと分かってたんだなって、目の前にいる高久への印象がどんどん変化を遂げる。 「っ……!」 「え? おっ、おい! どうした!?」 なにかを堪えるように唇をキュッと結んでいた高久。 だけど耐えきれない気持ちが溢れ、ボロボロとその目からは涙が零れ落ちていた。 「……っんでだよ……。俺のことなんかっ、ほっとけよ……」 とどまることを知らずに次から次へと流れ落ちていく涙に、勢いだったとは言えチューはショックだったか! とまず真っ先にそのことが頭に浮かんだ俺。 「そういうわけにはいかねえなー。だって言っただろ? 友達だって」 その友達である男にチューしたことへのツッコミをされたらどう切り返すか、なんて考えながら高久からの言葉を待つ。 「無視っ……してやがったくせに……」 「ん?」 俯き加減にボソッと呟かれた言葉に、俺は記憶の糸を辿らせる。 「友達だとか言ってたくせにっ、無視……してたじゃねえかよ!」 「俺が?」 響ちゃんの清々しいくらいの無視には敵わねえよと思いつつも、唯一思い当たる節と言えば。 「ひとりで……、平気だったのにっ……」 「響……」 無視なんてしたつもりは全くないんだけど、実際そう見えてもおかしくない。 延々と話聞かされたからな、そういえば。 「なんだ。お前寂しかったのか」 「なっ! ちげえよ! そんなわけ……!」 そうかそうか。 だから今日話し掛けてもなかなか口を開いてくれなかったってわけか。 あれって、拗ねてたのか。 「ははっ! なんだそうかっ、お前拗ねてたのか!」 「違うっつってんだろ! 俺はっ……!」 「分かった分かった! これからずっと一緒にいっから! だから寂しがんなー?」 「勝手に決めんな!」 独りに慣れようとしていた高久。 タイミングわりいことに出くわしたなと思っていた俺だったけど、これはこれで楽しいことになっていく為の下準備みたいなもんで。 なんか、ほっとけねえんだよな。 「よし、気ィ取り直して本屋デート行くか!!」 「……行かねえよバーカ」 今日はなんか楽しいことあっかな、から毎日が無条件で楽しくなっていきそうだ。 「記念すべき初デートだな」 「はあ!? バカじゃねえのかお前!!」 ほらな? コイツ、そんなわりい奴じゃねえだろ? なっ! 響! 「……うっせえ」 《END》

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