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1.ウラアルファ〈6〉
「響ちゃ~ん! こっちこっち!!」
何処からか聞こえてきた呼び掛けに、視線を巡らせながら声の主を探す。
「……あそこか」
大勢の人で賑わう場、次へと瞳を向けていきながら、ようやく見覚えのある人物が視界に入ってくる。
短く刈られた芝が生い茂る斜面、その中腹で此方に手を振っていた成山と、笑みを浮かべる批土岐 を一度見てから、そこへと一人向かっていく。
「いいとこ空いてたぜ! こっからならよく見えていいっしょ~!?」
「……別に」
よく晴れた空の下、辿り着けば明るく話し掛けられて、此処へ座れと指で示される。
「……」
しかし、促された通りに腰を下ろそうとして、はたりと気付いてしまった。
「此処って……」
指し示された場所、そこは何故か成山と批土岐の間で、唇からは躊躇いの声が零れてしまう。
別に気にすることなんかねえってのは分かってんだけど、どうもこの間に割って入っちゃいけねえような気がすんだよな……。
「高久?」
二人からの視線に気付かず沸々と悩み始めていれば、批土岐に声を掛けられハッと我に返る。
「ほら、座って?」
見れば穏やかな笑みを浮かべる批土岐が居て、成山同様に指で示してきた。
んなこと言われても、やっぱなんかそこに座んのはマズい気がすんだよな……、理由は分かんねえけどなんとなく……。
一体どうしたらいいのかと思考を巡らせ、良い案に辿り着こうと足掻いてみるがなかなか上手くはいかない。
もっとこう、此処に座んじゃなくて、……あっ。
「……そっち行くからいい」
そこが駄目なら違う場所に行けばいい、と言うことに気付き、間ではなくどちらかの隣へ移動しようとする。
始めからこうしてりゃ良かったんじゃねえか、そうすりゃ悩む必要も無かったっつうのに。
「い~やダメだっ!!」
さてどちら側へ行こうかと考え始めたところで、先程よりも大きな成山の声が耳に入ってきた。
一体何事かと目を丸くし、突然の大声に内心動揺しながらも、行動を阻んできた成山へ瞳を向ける。
「ぜってえ此処! 譲れねえ!!」
「はあ……? なんでだよ……」
「響ちゃんにはさ、一番見やすいとこで見てて欲しいっつーか……、それに……」
「?」
「なんつうか響ちゃんにはさ、端っこに居てもらいたくないんだよね。だから、俺らの間」
そう言って、照れ臭そうに笑う。
「そういう事らしいから、ね?」
戸惑いを浮かべながら視線を向ければ、穏やかな笑みを湛える批土岐と視線が合う。
「……ワケ分かんねえっ」
どうして、俺の周りはいつもこうなんだろう。
自分には勿体無い、そんな優しさと思いやりを持つ友人達へ、ぶっきらぼうに答えながらも素直に腰を下ろしていく。
「な~にかっこつけてんだ? つか今ぜってえ自分の言葉に酔いしれただろ」
そんな時、何処からか聞こえてきた覚えのある声に、三人が同時に視線を向ける。
「お! 峰くんや~っと来たな!! つか別かっこつけてねえし! だって俺、元からかっけえじゃん!?」
「あ~、はいはいっと」
「な、なにおう!? んだよそのリアクションは~!」
成山の隣、一体いつの間に現れたのか、峰木が悪戯な笑みを浮かべながら座り込んでいた。
「どうも、先輩方」
そして更に聞こえてきた声に目を向けると、峰木の背後で立っていた人物が視界に入ってくる。
なんだかんだで峰木とツルんでる姿をよく見掛ける、確か……、北見だったか。
「あぁっ! ま、また二人で一緒に……! そうかそうか峰くん、うんうんうん」
「あぁ? なに勝手に納得してやがんだオメーは! どうせろくでもねえことばっか考えてんだろ!」
疑惑の二人を交互に見つめていた成山が、大袈裟に騒いだかと思えばすぐにも一人で納得し、ウンウンと頷いてみせる。
しかし峰木にしてみればさっぱりで、成山へ詰め寄りながら一体なにがどうなっているのかを聞き出そうとする。
まあアイツの事だ、そんな大した事なんか考えてねえと思うけどな。
聞き出すだけ無駄かもしんねえぜ……?
なんて事を言えばきっと、成山は口を尖らせながら拗ねるに違いない。
「ろくでもねえってなんだよ峰くーん! つか峰くんのがよっぽどろくでもねえ不良だってー! はっはっは!」
「高らかに笑ってんじゃねえよボケッ! オメーだって十分ろくでもねえだろが!!」
峰木と成山のやり取りを眺めながら、ぼんやりと思考を巡らせる。
なんだかんだと言い合う割に、組めばピタリと息が合ってしまうのだから面白い。
まあそう言ってられんのも、組んだ奴等の標的が俺になってねえ時だけだ……。
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