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2.ウラアルファ〈6〉

「高久」 そんな時、耳元へそっと声を掛けられる。 未だじゃれ合っている峰木と成山から視線を逸らし、呼び掛けてきた批土岐に身体を向け、すぐにも穏やかな瞳と目が合う。 「来たみたいだよ」 柔らかく紡がれた言葉、その一言で全てを悟る。 「おお! 来たぜ来たぜ響ちゃ~ん!!」 「やっべーなんだよアイツッ! ちょっとそれっぽいんじゃねえの~!?」 批土岐の言葉に視線を巡らせようとすれば、いつの間にか成山と峰木が此方に加わっていて、ある一点を眺めながら声を上げる。 「お~い! 慶史~!!」 しかしそれだけでは気が済まなかったのか、成山が立ち上がったかと思えば大声を出し始め、両手をブンブン振りながら呼び掛ける。 「ばっかテメ恥ずかしい奴だな! 目一杯アピッてんじゃねえよ!」 成山の行動に、すかさず言葉を滑り込ませる峰木。 それには俺も同感だ、今だけ他人のフリでもするか。 「お! 気付いた気付いた!!」 「そりゃそんだけ目立ちゃ気付くだろ。ホレ見ろ絶賛苦笑い中だぜアイツ」 「え~? どう見たって爽やか~に笑ってるようにしか見えねえぜ! 応援サンキュなあ! みたいな!?」 「へーへー」 「なっ……! ここまで熱く語らせといて途中で放置!? 酷くね!? 峰くん酷くね!?」 ようやく視線を向けて見れば、グラウンド脇で話をしている集団が、すぐにも瞳へ映り込んでくる。 澄み渡る空よりも青いユニフォームに身を包み、控えた試合を前にして、最終的な打ち合わせをしているようだ。 「……」 あちらこちらへ視線を彷徨わせる必要も無く、自然と見慣れた姿が瞳に入ってきた。 頭一つ分飛び抜けて、こんな時でも笑顔を絶やさずに、周りの緊張を解きほぐしていく。 別に笑おうと心掛けてるわけでもなく、アイツは元から……ああいう奴だ。 それは俺が、よく知っているつもりだ。 「お! 手ぇ振ってら! ほら! ほら響ちゃん! すかさず振り返して振り返して!」 「うるせえなっ……、なんで俺がっ……」 再びその場に腰を下ろした成山だったが、落ち着きの無さは相変わらずらしい。 これだけ賑やかにしていれば嫌でも気付くはずで、此方に笑顔を向けてきたかと思えば、ヒラヒラと小さく手を振ってくる。 それに大きく手を振り返して応える成山、周りは笑みを浮かべながら、慶史に視線を送っていた。 「そろそろ始まるみたいっすね」 「おう、そうみてえだな」 すぐ側から聞こえてくる、北見と峰木の会話。 どうやら試合開始時刻が迫って来ているらしい。 その後も二、三続いた会話を耳に入れながら、瞳は未だ一人を捉え続けていた。 成山に向け振っていた手を下ろし、面々を一通り眺めてから、当然の様に視線が戻ってくる。 ずっと見てきたあの笑顔で、何か言葉を掛けるわけでもなく、ただ微笑んでみせる。 「……」 それが何よりも、俺を落ち着かせる。 けれど長く視線を合わせるのは、どうにも照れ臭くて耐えられない。 普段ならとうに逸らしているが、余所見ばっかしてんじゃねえよと視線で語り、小さく顎で前を向けと示す。 一言も声に出してはいないけれど、それらの行動だけで慶史には十分伝わったらしい。 ハイハイ、とでも言う様に小さく頷いてみせると、再び意識をチーム内へ戻していった。 「ああ~……、緊張すんなあ。どうなんのどうなんのちょっと~」 「いやオメェ一切関係ねえし」 「なんだよ峰くんのバカヤロッー! 貴方がそんな冷めた人だったなんて! [[rb:京 > けい]]たんさみしいっ!」 「ふん。俺とテメエの関係はもう終わったんだ」 「先輩、成山先輩の即興劇に流されてますよ」 「ハッ……! くっ! 俺としたことが! こんな野郎スルーしてやるはずなのに!」 相変わらず騒がしい隣、けれど不快に感じることは無い。 飽きもせずじゃれ合う二人を、側では楽しそうに北見が見つめている。 そして成山を適当にあしらいつつも、なんだかんだで乗ってしまう峰木は相当、面倒見が良く御人好しだと密かに思う。 コイツは何処か、アイツに似ている……。 ……なんとなく、思っただけだから気にすんじゃねえよ。

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