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4.ウラアルファ〈6〉
「泣いて頼んできた奴を……、突っ返すなんてこと、しねえから……」
慶史にその話をしてきた時、俺も場に居合わせていた。
努めて明るく、今日の練習試合に出て欲しいと、軽い調子で話を進めていた様に思う。
けれど時が経つにつれ、話をしながら様々な出来事を思い出してしまったのだろう。
今日の試合に向け、日々の辛い練習をこなし、部員一同で分かち合いながらここまで来たというのに、間近にきて突然断たれてしまった。
仕方が無いこととは言え、悔やんでも悔やみきれなかっただろう。
たかが練習試合かもしれない。
しかし彼等にとっては、その一つ一つが大事な一戦。
「そうだね。頼りたくなる気持ちも、分かるかな」
「……ああ。アイツは誰にでも……」
――優しいからな。
言葉を続けようとして、ハッと我に返る。
何か今、とても嫌な感情を含めながら、最後の言葉を紡ごうとした。
……ったく、何処まで女々しいんだよ……。
あん時からホント、進歩がねえな……。
「うん。榊は誰にでも、優しいからね」
「あ……」
ぐるぐると葛藤が姿を現し始め、自分に対する嫌悪を深めていた。
そんな時に、批土岐から紡がれた言葉を耳に入れ、間の抜けた声が滑り落ちてしまう。
寸前で胸の奥へ押し込んだ言葉、けれど批土岐には分かっていたらしい。
「でもそれ以上に高久が優しいから、榊はああやって今、あそこに立ってるんだと思うよ」
「え……?」
思いもしない事を言われ、戸惑いの表情を浮かべる。
俺が……、優しい?
なんかの間違いだろ、そんなわけねえよ……。
「試合に出るか出ないか。榊はきっと、自分一人の判断では決めなかっただろうね」
「……」
「当たり、かな……?」
何も言えずにいる俺へ、批土岐は少し悪戯な笑みを浮かべる。
でも言われてみれば、確かにそうだ。
俺でいいなら出てやりたいって顔してやがったくせに、返事を下す前にアイツは一度、こっちを見た。
答えを、委ねるかの様に。
「本当、分かりやすいんだね」
「なっ……、なにがだ……」
くすりと笑われても、何故そうなったのかが分からない。
けれどなんだか居心地が悪く、鼓動が不規則に乱れ打つ中、努めて冷静に聞き返す。
「高久が出るなって言ったら、きっと榊は出なかったよね」
「……なんでだ?」
「榊は確かに優しいと思うよ。でも、高久が絡んだらきっと榊は……」
「アイツが、なんだ……?」
先が気になって仕方無いのに、途中で言葉を切った批土岐は、此方を見つめながらただ微笑む。
コイツ……、なんか楽しんでねえか……?
「この先は、自分で考えてみて。高久の為になるし、じっくり考えてもらえる榊は嬉しいだろうし。ね?」
「んな事言われても……」
ここまで引っ張っておいて、後は自分で考えろと切り捨てられる。
んな事言われたって、俺に分かるわけねえだろ……。
慶史は誰にでも優しい、でも俺が絡むと、……どうなるって言うんだ……。
どうもなんねえんじゃねえのか? なりようがねえだろ?
俺が優しいから、アイツはフィールドに立っている。
俺が優しくなければ、アイツはフィールドに立っていない……?
最後に此方へ視線を合わせてから、とるべき行動を決めた。
ああクソッ……、考えれば考える程、答えから遠ざかっていく気がする……。
今の俺にはまだ、近付く事さえ出来ない答えだと思った。
「おーし! 配置についたぜ! いよいよ始まるなあ! あ、ちなみに榊 慶史くんはあそこね」
「……峰木」
「おーっし、くたばれ成山」
「いでででで!! ちょっ、なんなんすかその結束! や、つうか締まってるっていってえいってえ!! すんませーん!!」
いよいよキックオフ、相手チームが蹴るボールを上手く我が物にし、得点へと繋いでいきたいところだろう。
張り詰める空気、互いに視線を送り合ってから、選手全員が一点へと集中を高めていく。
先程余計なことを口走った成山も、峰木のお陰で静かになったようで、この場の視線もこれから始まる試合へと注がれる。
「……負けんじゃねえぞ」
唇を操り、そっと風に流した言葉。
お前だけに、届いていたらいい。
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