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5.ウラアルファ〈6〉

「おぉーっし! 行けオルアァーッ!!」 程なくして始まった試合、ギャラリーが一斉に沸き立つ中、隣もしっかりとその波に乗っていた。 若干喧嘩腰なのは、俗に言う不良と呼ばれる存在な為、仕方が無い。 「アレ? にしてもあの、ボールぶん取って走ってる奴……、何処かで……」 挑発的な応援の後、すぐにも普段通りの成山になり、ボールを蹴り進めている者を見つめながら、何やら言葉を漏らす。 「ああ! かけっ……さ、佐伯じゃ~ん!」 現在ボールを保持している者、どうやら成山と知り合いらしい。 しかし、何処か態度にぎこちなさを感じるのは何故だろう。 あからさまに今、呼び方変えたよな。 「お! 上がってきたじゃねえか! これいけんじゃねえの!? なあ!」 「えっ……、ああ、そうっすね」 両サイドから上がってきた、佐伯と慶史が相手陣地を駆けていく。 その活躍ぶりを見て、峰木が楽しそうに北見へと声を掛ける。 しかしまさか話し掛けられるとは思っていなかったのか、言葉を返すまでに少し時間が掛かっていた。 「誰もが皆、榊をサッカー部だと思うだろうね」 意識を再び前方に戻せば、柔らかに紡がれた言葉を聞き、思考を巡らせる。 事情を知らない者が見ればきっと、慶史は元からサッカー部員なのだと、誰もが思うに違いない。 それ程までに馴染み、その背はチームを引っ張っていた。 「あ! やっべ囲まれた!」 批土岐へ何か言葉を返そうとしたところで、試合の行方を追っていた成山から、焦りの声が滑り落ちる。 見れば佐伯の周りに、ボールを奪おうと相手チームが詰め寄っていた。 流石にそう簡単には、点を取らせてくれないらしい。 「見せ場が来るね」 「え……?」 一体なんの事かと思う間もなく、囲まれて不利な状況に陥りながらも、佐伯は好戦的な笑みを湛え、僅かな隙間を一気に抜ける。 そして捉えた瞳、次には思いきりボールを蹴り上げ、受け取るであろう人物を映し込む。 「おっしゃー!! ブチ込めこのやルアァッ!!」 勢い良く飛んできたボール、一度胸で受け止めてから足元へ落とし、ゴールへ向かい素早く走り出す。 誰が今ボールを持っているかは、周りの反応ですぐにも分かる。 「クッソ! 詰めてくんのはえーな! 頭突け榊!!」 「いやいや、先輩じゃないんすから。つかそんな事したら退場ですよ」 「マジで! 頭突きっていけない事なの北見ん!」 「え、そりゃ駄目なんじゃないんすかね」 「だってよ峰く~ん! こりゃ絶体絶命だぜ! どうする慶史!!」 「頭突きが駄目ならっ……、みぞおちに一発重てえのをっ……!」 「いやいやいや。てゆーかそれ、真面目に言ってる……?」 慶史がボールを持ち、群がる敵をかわして前に進む中、隣からはなんとも頭の弱い話が聞こえてくる。 健全なスポーツであるサッカーも、峰木や成山にかかってしまえば、それはなんでもアリな乱闘へ早変わりしてしまうらしい。 とっくに分かってたけど、コイツ等……アホだな。 なんて内心毒づいてみるものの、不快な気持ちなど微塵も無い。 「ここを抜け出たら、一気に行くね」 「……ああ。アイツなら絶対、決めに行く」 周りに仲間が詰めかけているが、群がる敵にしつこく付きまとわれ、味方へパスをするには難しい状況。 ゴールとの距離は近い、けれど確実に決めるのならば、もう少し差を縮めなければならない。 きっと今、アイツは最も良いだろう答えを探し、ボールを守りながら考えている。 どう動くことで、より良い状況に結び付けられるかを。 「あ、抜けた! つかウマッ!!」 そして弾き出される答え、行く手に立ち塞がる敵の頭上へボールを上げ、虚を衝かれ一瞬動きが鈍った隙に抜け出す。 再びボールを迎え入れ、敵と味方が入り乱れる中でパスを回すか、そこからゴールを狙っていくか。 お前ならきっと、こうするだろう。

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