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7.ウラアルファ〈6〉

「どうやら前半が終わったみたいだね」 そこへ紡がれた言葉、知らぬ間に前半が終了していたらしく、選手達は皆汗を光らせながら、ベンチを目指し駆け出していた。 得点を上げられないまま迎える後半、勝利の栄冠は一体どちらが手に出来るのか。 「オメーはどう見る?」 「俺すか? そうっすね……、有利に試合を運んでるとは思うけど、相手も相当っすから……結構危ないかもしんないっすね」 「つえーもんなぁ、無駄に」 「コラコラ峰く~ん! 無駄にとか言ったら、向こうに睨まれちゃうぜ~?」 冷静に考えを述べる北見、誰が見ても簡単に終われる試合ではなかった。 それでもこのまま全力で挑み続ければ、確実に勝利を掴み取れる一戦。 応援の熱が高まる中、後半への時間が刻一刻と迫ってくる。 「……不安?」 「え……」 手渡されたタオルで汗を拭き、仲間と何事か話をしながら、渇いた喉を潤し始める。 自然と目で追っていた、一連の行動。 特に何も、暗く沈む様なことを考えてはいなかったが、批土岐に掛けられた言葉を聞いて、何故だかドキりと心が跳ね上がる。 「何処に居ても榊は、高久の事をいつも考えてると思うよ」 「……」 触れない様に隠してきた不安を、批土岐が柔らかく癒す。 返す言葉も見つからないままに、再び視線は慶史を捉え始める。 慶史の隣、定位置であるそこには今、別の誰かが立っていた。 同じ志しを抱く仲間、そこへ入り込む隙など無い。 「改めて俺が、言う事でもないけどね」 くすりと微笑みながら、批土岐の視線もまた、後半へ挑む慶史に注がれる。 言われるまでもない、そう力強く思う事が出来たなら、どんなに良いだろう。 此処に座っている自分と、グラウンドへ歩を進めていく慶史。 この距離がそのまま互いの距離だと、隙あらば囁いてくる悪しき心。 生きる場所が違うのだと、現実を突きつけてくる。 「おしおし! 後半始まったぜ~!! ささ、峰木さん、今のお気持ちをどうぞ」 「とりあえず、殺っちまえ」 「おおー! 殺っちまえコラァッ~!!」 「オラオラァッ!! ぶんどれぇっ!!」 気持ちを深く沈ませても、時は決して刻むことをやめない。 後半戦が始まり、より一層の熱が入る応援に、物騒極まりない声援が被さる。 これだけ聞くと、なんの応援してるかなんてぜってえ分かんねえよな……。 「あっち行ったりこっち行ったり、どれだけ互角かよく分かりますね」 両者共に振り回されながらも、どうにか主導権を握ろうと何処までも貪欲に追い縋る。 ここで点を入れられてしまえば、残りの時間で逆転するには少々厳しい。 なんとしても得点を決める側になり、試合終了まで逃げ切りたいところだろう。 「いーや互角じゃねえ! オラ今奪い取っただろうがよコラァッ! ちゃんと見えてんのか!? あァッ!?」 「はいはい、ちゃんと見えてますよー。試合観戦、結構好きだったんすね~先輩」 再び味方がボールを受け、いつの間にか成山よりも騒々しく、峰木が北見の胸ぐらを掴みながら熱を上げている。 普段からは考えられない、珍しい光景。 子供の様にはしゃぎながら試合を見つめる峰木を、何処か優しげな北見の瞳が、その姿を見守っていた。 「おお! 響ちゃーん! 慶史にパスがいったぜ~!!」 試合へ意識を集中させようとした矢先、成山に声を掛けられて、すぐにも視線が一人へと注がれる。 味方からのボールを受け、攻めに転じようと蹴り進む。 「ああっ! さっきよかマーク増えてねえ!?」 「あれだけ囲まれたらよー、成山ならどうする?」 「俺ー? やっぱどいつかを蹴り倒してだねえ、そんでっ……」 「二人とも、サッカーっすよコレ」 ゴールを目指そうとするが、先程よりも立ちはだかる者が増えていた。 味方へパスしようにも、隙が見当たらずどちらへも行動を起こせない。 「……苦しい状況だね」 批土岐の言葉を受け、真剣な表情を浮かべる慶史の姿を見つめる。 時は待ってくれず、刻々と先を進んでいく。 このまま睨み合いを続けていても、なんの意味も無い。

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