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10.ウラアルファ〈6〉
「良かったね、高久」
「え……、いや、俺は別になんとも……」
「まったまた~! 慶史の活躍っぷりに惚れ直したくせにウリウリッ~!!」
「……峰木」
「おし成山ァッ、勝利祝いに遊んでやるぜオラアァッ!!」
「いでぇっ!! んな遊びで死にかけてたまっかコノヤロッー!!」
いつも通りにじゃれ合い出す二人、微笑ましく瞳を向けながら、満ち足りた気分に浸る。
グラウンドでも勝利を決めた慶史に仲間が駆け寄り、じゃれ合いながら中央を目指していく。
相手チームは対照的に、悔しそうに顔を歪め、涙で頬を濡らしている。
「慶史かっちょいぃー!! 俺を抱いて!!」
「……京灯」
「!! い、いや今のはっ……、ちょ、ちょっとした冗談でっ……」
成山がこんなにも焦る理由は分からないけれど、考えたところで答えには行き着けないだろう。
両者が並び、互いの健闘を称え合いながら挨拶を交わす。
温かい拍手に迎え入れられ、選手たちがベンチへ戻ってきた。
「よおーっ榊! かっこ良かったぜ!!」
すぐにも救急箱を持ったマネージャーが駆け寄り、皆に見守られながら、慶史の傷を手当てしていく。
「ははっ! サンキュな~! すげぇ声聞こえてたぜ!」
「マジで! うわあ峰くん恥ずかしい~!」
「待て待て待て、なにを関係ねえってツラしてやがるテメエッ!」
差し出されたパイプ椅子に腰を落とし、怪我をしながらも至って元気な慶史は、此方に手を振りながら言葉を紡ぐ。
なんだ、結構平気そうじゃねえか。
……心配させやがって。
「高久」
「……ん? なんだよ批土岐……」
やり取りを見守りながら思考を巡らせれば、隣に座っていた批土岐が声を掛けてくる。
優しい笑みを浮かべる批土岐、視線を合わせてから間もなく、彼は穏やかに言葉を紡いでいく。
「今日はいつも以上に、榊に優しくしてあげないとね」
「なっ……、なんで俺がっ……」
思いもしない言葉を受け、あからさまに動揺を示してしまう。
な、なんでそんな事っ……、批土岐に言われなきゃなんねえんだよっ……。
「あ、ホラホラ響ちゃん!」
ぐるぐると思考が回り出した頃、成山に呼ばれ何事かと思う。
見れば前を向けと指で示され、大人しく視線をその方向へ向ける。
「っ……」
そこには、此方を見つめる慶史の笑顔があった。
「ふんっ……、ばーか」
けれどこんな大衆の中では、一秒すら瞳を合わせていられず、すぐにも憎まれ口と共にそっぽを向いてしまう。
それでも心は酷く、落ち着いていた。
変わらない笑顔がそこに、存在していたから。
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