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1.介抱

「ん……、んん」 ザアッという葉音と共に、心地好い風が頬をさらりと撫でていき、安らかな眠りから少しずつ目覚めていく。 いつの間に熟睡していたのだろう、けれども柔らかな陽射しにチラチラと照らされているのを感じ、いつから何故眠っていたかなんてすぐにどうでも良くなってしまう。 気持ちいい……、まだ、もう少しだけ寝ていたい……。 自然の巡りしか聞こえず、とても過ごしやすく涼やかな風が流れては、小鳥のさえずりに心を癒され、緑豊かな奏でに大いなる安らぎを得る。 「う……、ん」 とても穏やかな気持ちの中、こんな寝心地の良い枕まで用意して一体何処まで来ていたんだろうと思いつつ、ぼんやりと薄く目蓋を開いてみることにする。 しかしそれほど深い眠りであったのか、なかなかパッチリと一息で目覚めることは叶わず、抵抗している目蓋を少しずつ押し開いていく格好となる。 「あ……、目ェ覚めたか?」 睡魔から解き放たれず、隙あらばまた眠りにつこうとしている中で、それではいけないと喝を入れながら無理矢理に起こしていく。 けれどもそのような中、停止していた思考に何やら滑り込んできたように思え、未だぼんやりとしながらも耳を澄ませてみる。 「大丈夫か?」 「えっ……?」 光が飛び込み、次第に確かな輪郭を持って景色が紡がれていく中、目の前には誰か、見知らぬ人物が顔を覗かせている。 綺麗な青年、そしてその先では緑葉を揺らしている木々が見え、此処が日陰になっていることを知る。 いや違う、そうじゃない……、此処が日陰かなんてどうだっていい……。 鮮明になっていくはずが、見慣れない青年を前にしてどんどんと混乱していき、得るはずの冷静な思考が綺麗に皆飛び立っていく。 「少しは気分、良くなったか?」 なんで、どうして、いつから、なにがっ……。 目が点になり、柔らかく声を掛けている青年を真上に見ながら、到底処理しきれない状況に固まり、脳内は盛大なまでに焦りを生み出してしまう。 何故気遣われているのか、どうして顔を覗かれているのか、それ以前に彼は一体何者なのかと、片っ端から疑問を挙げていけばキリがなく、どのように切り抜ければベストなのか見当もつかない。 誰……、なんで俺、ココ何処……、どうしよう、分かんねえ、なにがどうなってっ……。 「……悪いな。枕代わりになるようなもんが見つからなかった」 「えっ……?」 絡まる思考、どれだけ懸命に考えても青年とは結び付かず、何か言いたいのだけれどなかなか言葉にはなってくれない。 身を強ばらせ、頭の中では壮絶なまでに混乱を極め、一点を見つめてはいるけれど正直それどころではない。 見ているようで全く見ておらず、なんにも出来ないまま硬直している此方を見て、綺麗な青年は何を感じ取ったのだろう、ポソりとまた一つ言葉を落としてくる。 「えっ……、あ」 柔らかな言葉から、彼が言わんとしていることは一体なんなのだろうと、言葉にならない声を漏らしながら考えてみる。 枕代わりになるようなもの……、何故今そのようなことを言うんだろうと疑問を浮かべながら、次第に思考が少しずつ、ある重大なことに気が付いていく。 状況から察するに、自分は今横になりながら彼を見上げていて、後頭部に何やら温かい感触がある。 夢うつつの状態でいた時には、何処からこんなにも寝心地の良い枕を持って来ていたんだろうと思いもしたけれど、冷静に考えればそんなはずがない。 枕なんて持ち歩いてもいなければ、このようなところにポンと置かれているはずもないのだ。 え、じゃあ、枕じゃないなら……。 「覚えてるか? さっきのこと。お前、ブッ倒れたんだぞ」 「えっ……?」 温もりは枕でもなんでもなく、この綺麗な青年からもたらされているもの。 つまりは、膝枕をされている。 と、そう気付いた途端いよいよどうしたらいいのか分からず動揺を深め、とりあえず起きなければとゆっくり慎重に上体を上げていく。 「なんかふらついてんなと思ったら、いきなりブッ倒れるから焦った」 「あ……、そう、だ……」 言われて蘇る記憶、ここのところ寒暖の差が激しく、肌寒い昨日とは打って変わり、今日は憎らしいくらいに太陽が輝いていた。 直射日光をまともに受け、朝から特に何も口にしていなかったことや日頃の睡眠不足がたたり、突如急激な目眩に襲われたかと思えば、そのまま世界が暗転してしまったのだ。 かっこわりィ……、とは思いつつも軽い貧血であったらしく、暫く横になっていたお陰でだいぶ今は気分が良い。 けれどもそれは、彼がこうして介抱していてくれたからであり、下手をしたら未だ炎天下に晒されていたかもしれない。 けれどもどうしよう、なんと言えばいいのだろうと、ありがとうという言葉すらなかなか思うように紡げず、チラりと青年を見つめてから顔を俯かせてしまう。 「どうした? まだ気分悪いか……?」 「いや……、もう、大丈夫……、です。迷惑かけてすいません……」 「気にするな。それよりお前、熱でもあるんじゃないのか?」 「いや、もう、全然……、平気です」 まともに顔など見れず、気遣う青年から逃れるように視線を逸らし、ボソボソと言葉を途切れさせる。 もしかしたら幾つか年上なのだろうか、面倒見のいいお兄さんな雰囲気が窺える青年は、大丈夫と言ってもなかなか納得をしてはくれない。 「えっ……」 「……これじゃよく分かんねえな」 「えっ……、ちょ、なに、うわっ」

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