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第10話 もやもや

目覚めると前日の熱っぽさは引き、体温計で計測しても36.6℃と平熱であったため飛鳥は学校へ行く準備をした。 いつもであれば朝練に参加するのだが、大事をとって今日まで部活は休ませてもらうことにしている。いつもより遅めの電車に乗るのは久しぶりで、ホームに並ぶ顔もいつもと違い見知らぬ顔ばかりで辺りを見回す。すると、スラッとした長身に学生服を纏った金髪が目に入った。一目見ただけで京一だとわかり、声を掛けてみようと思った飛鳥だったが、京一のすぐ横に昴がいることに気がつき足が止まってしまう。 飛鳥が少し離れたところから2人を観察していると、昴は京一の腕に触れ、甘えるように身を寄せ耳打ちし合う様子に腹の底から何かもやっとしたものが競り上がってくるようであった。 電車に乗り込み、背負っていたリュックを邪魔にならないよう体の前に回して両腕を通して抱え、あまり二人を視界に入れないよう体の向きを変え外の景色を見るように立った。しばらくすると飛鳥は腰のあたりに違和感を覚えた。何かを押し付けられているような感覚に気持ち悪さを感じながらしばらく様子を見ていたが服の隙間に手を差し込まれたと思った瞬間にその手を掴もうとしたが、抱えた荷物が邪魔で失敗してしまった。相手もやばいと思ったのかそこから手を出してくることもなく、姿も確認できないまま学校の最寄り駅へと辿り着いてしまったのだった。 「飛鳥、顔がヤバいけど大丈夫か?」 席に座ってムスッとしている飛鳥に朝練を終えて教室へやって来た雷斗が尋ねる。 「ほんともー、朝から痴漢に遭ったし気分が悪いよ」 「痴漢……?男なのに?」 思わぬワードに驚いたようだが、そんなこともあるかとすぐに納得してくれるのが雷斗の良いところである。 「飛鳥ちゃんは顔が可愛いからな〜。性格は全然だけど」 「らいくん僕に喧嘩売ってるの?」 「冗談だって。それにしても災難だったな」 そう言いながら雷斗はポケットからミルクキャンディ1つ取り出し飛鳥にくれる。 「……ありがとう。らいくんはいつでも優しい。僕もいい友達を持ったものだな〜」 「現金なヤツだな」 軽いやりとりに連日の疲れが癒されていくようだった。 飛鳥は雷斗にもらった飴を舌で転がしながら1限目の授業を受けていた。眠くなる教師の声を聞きながら今朝のことを思い出す。 (すばくんときょーちゃん、この前会ったばかりなのにすごく仲良くなってたな……) ずっと女の子だと思い込んでいたため再会した時のショックが大きく、まさか男同士でと思い確認できずにいたが、幼い頃『きょーちゃん』とは恋人同士だった……と、飛鳥は記憶している。 白い肌に紅い頬柔らかそうな唇でそれでいて中身は繊細でまるでお人形の様だった昔と違い、成長した京一は背も高く物腰も柔らかで絵本に出てくる王子様のような成長を見せていた。昔とはあまりに印象が違いすぎ、頭の処理が追いついていないのが現状である。 あんなイケメン相手にお嫁さんになって欲しいなどとよく言えたものだと思った。 それに京一は好きな人がいると言っていた。10年もあれば色々な状況も変わるだろう。もしかすると恋人だっているかもしれないし、今朝の様子を見ていると案外昴との相性も悪くないのかもしれないと思った。そんな様子を思い出してモヤモヤとした気分になった飛鳥は目を閉じて意識を手放して楽になることにした。

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