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第13話 苦しみ
飛鳥は颯馬と帰りの電車に揺られながら、颯馬に問いかける。
「ねえ、そまくんに聞きたいことがあるんだけど……」
「……なんだ?」
「そまくんって……僕のことが好きなの?」
その問いを投げかけた瞬間、カラオケを出てから一度も合わなかった視線が合う。
「好きだ」
颯馬は誤魔化しもせずはっきりと答える。
「それって友達とか幼馴染としてってことじゃなく?」
「恋愛対象としてみている」
颯馬のはっきりと答えてくれるところは好感が持てる。それだけに、こちらからもはっきり伝えておくべきだと飛鳥は思った。
「そっか……じゃあ僕はそれには応えてあげられない」
真っすぐ見つめる颯馬の目は悲しそうに揺れていた。
「僕ね、きょーちゃんと昔約束したんだ。きょーちゃんは僕のお嫁さんになってくれるって言ってた」
それでも今伝えておく方がいつまでも期待させておくよりずっといいと思った。
「もちろん、10年も前の話だからきょーちゃんが今もその約束を覚えてるかなんてわからないけど……ちゃんと確かめるまで、僕からきょーちゃんとの約束を破ることは出来ないから」
ごめんね。と伝えると颯馬はそれきり押し黙ってしまう。
「飛鳥……お前もし、天賀谷が……」
別れ際になり颯馬がやっと口を開いたが、そう言ったきり「やっぱいい」と口をつぐんでしまった。
「そまくん、また明日」
飛鳥は明日も変わらぬ関係を続けていけるようにと願い、そう挨拶をして別れたのだった。
家に帰り自分の部屋へと駆け込んだ颯馬は昴にメッセージを送った。
『今日、俺の部屋に来てくれないか?』
午後7時そのメッセージに応えるように颯馬の家のチャイムが鳴る。
「いらっしゃい、昴。先に俺の部屋にあがっててくれ」
颯馬はリビングにいる祖母に声を掛け、2人分の麦茶を持って二階にある自分の部屋へと戻る。
「わざわざ来てもらって悪いな」
「う、ううん。大丈夫……颯馬、何かあった?」
昴が少し怯えた表情をしている。昴がこの顔をするときは、自分の顔が無意識のうちに強張っているのだろう。
「お前さ……」
質問をする前に一度深呼吸をし、自分を落ち着かせる。
「天賀谷と付き合ってんの?」
そう問いかけると昴の表情は何を言われているのかわからないという表情をしている。
「つ、つきあってない」
「それじゃ、やっぱ脅されてるのか?」
「そ……そんなことされてない」
「じゃあ!なんであいつとカラオケなんか行ってあんなことしてんだよ!!」
「え……」
昴の動きが止まり、見る見るうちに顔が真っ赤になり泣き出しそうな表情になる。
「そ、颯馬なん……で」
「お前が心配だから様子見に行ったんだよ!そしたらお前らがあんなことしてて……心配してバカみたいだよな?無理やりさせられたんじゃなければ、あの後もさぞお愉しみだったんだろうな?」
昴に捲し立てるようにそう言った言葉は何に対する怒りなのか颯馬自身にもよくわからなくなっていた。
「なあ、本当はお前ら、付き合ってるんだよな?」
「ちが……京一さんは、飛鳥のこと……それにあれは俺が無理やり……」
否定する昴の髪を颯馬が乱暴に掴む。
「いっ……」
「理由なんてどうでもいいんだよ。お前があいつとヤってんのかどうかって聞いてるだけなんだから」
「ま、まだ……してな」
痛みで涙が流しながら見つめてくる昴に妙にゾクゾクしてしまう。
「なあ、昴。お前さ……ちょっとあいつに抱かれてきてくれよ」
髪から手をはずし、昴の頬を流れる涙を優しく拭う。
「お前も天賀谷のことが好きなんだろ?だから、あんなことしてたんだよな?」
発言と裏腹に優しくなだめるように抱きしめられて昴は嗚咽を漏らす。
「お、俺は……颯馬のこと……」
昴はそう言いかけて言葉を飲み込む。
「俺が……頑張ったら、そうまのためになる?」
ああ、と頷く颯馬の声があまりに甘くて優しくて、自分は颯馬にとってはなんだったのだろうという想いが渦巻いて胸が締め付けられるように苦しくなる。
「そっか……ねえ、俺、頑張るから。一度だけでいいから……」
そうして昴は颯馬の唇に自らの唇を重ねたのだった。
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