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第14話 それでいいの? 視点:京一

飛鳥に任されたからには最後まで責任を持って助けになりたいと思っていたし、昴本人も放っておけない魅力があった。だから、痴漢の件の方がつくまで一緒にいて様子を見るべきかと思った。朝も一緒に電車に乗り込んだが、その時は自分がそばにいたからか痴漢は現れなかった。帰りも時間帯によっては遭遇すると言っていたので遭遇しやすい時間と犯人の特徴について電車に乗る前に教えて貰っておくべきだと思い、駅前のカラオケで待ち合わせをした。 それがまた迫られるとは思っていなかったし、油断していた。咄嗟にどうしていいかわからずされるがままになってしまったが、あれはやはりまずかったと思う。 あの時ドアの外に人がいて目が合った気がした。見間違いでなければ颯馬だったのではないかと思っていたが、それがこんな状況を生み出すとは思っていなかった。 「ねえ、高梨くん……こんなことして何かあった?」 こんなこと、というのは昴が飛鳥のことで相談があると言って、京一の家へ訪ねてきたと思ったら京一の手を後ろ手に縛りあげてベッドに転がされている状況のことである。 前回泊めたのが父親の部屋で、勝手がわかりやすかったためかその部屋に押し込められた。今はもう普段は使われていない部屋のため自室のように大したものがなく、縛り上げている紐のようなものを切るための道具も見当たらず、まずは昴に事情を聞いてみようと思った。 「京一さん……お、終わったら俺のこと殴ってもいいから……ごめんなさい」 そう言った昴は床に頭をこすりつけて謝罪をする。終わったらという要領を得ない言葉にさらに問おうとしたが、顔を上げた昴が泣いているのに気づき何かただ事ではないことを察した。 戸惑っている間に昴はベッドに上がり、京一の上にのしかかる。そして、そのまま京一の視界は暗くなる。 「な、何?」 真っ暗になった視界と目元に触れる生地の感触からアイマスクをつけられたのだろうということがわかった。しかし、なぜこんなことをするのかは全く理解不能だった。 「こんな目隠ししてまで何かする意味があるの?こんなの、俺にも高梨くんにもいいことなんて1つもないでしょ?」 「そ、そんなことない!」 表情こそ見えないが、今まで昴から聞いたことのないほどの強い言葉に何か意図を持ってこの状況を作り出していることは十分理解できた。 問題は、それが何のためになのか……。 「お、俺……何にもできない役立たずだけど。こうすればちゃんと居場所をもらえるから」 昴の居場所と言われて京一の頭に浮かんだのは飛鳥と颯馬の姿だった。飛鳥とは先日の一件以来気まずくてあまり顔を合わせていないと聞いている。 もし、あの時カラオケで見かけた人影が颯馬だったとしたら、もしかしたら痛めつけてこいとでも言われてきたのだろうか。 「……もしかして、茅野から何か言われた?」 昴はその問いには答えずに京一のスラックスのジッパーを口に咥えて下すと手早く下着の中から京一のモノを取り出し口に含む。 「んっ……ちゅっ……くちゅ」 「あっ……」 頭を下げていた京一の逸物は口内で撫でて吸い上げてあげると褒められて喜ぶように見る見るうちに頭を上げて主張をし始める。 「京一さんには助けてもらったのにひどいことしちゃうけど……ごめんなさい。せめて気持ちよくなれるように頑張るから……飛鳥だと思って」 「高梨くん……」 京一の胸が傷んだ。昴の行為はいつも自傷のようで何がそんなに彼のことを追い詰めているのか知りたいと思った。 「俺、えっちが上手だねって……おじさんも褒めてくれたから、だから……」 カチャカチャと金属が擦れる音と衣擦れの音がする。続いてパチンと弾くような音がしたかと、ぐちゅっ粘度の高い水音がした。 「ふっ……ん……は……はぁ」 京一は自分がいま置かれている状況に気がつき焦る。 「ま、待って……高梨くん、それはダメ」 身をよじって逃げようとするが、昴の身体はそれなりに重量があり、両手を縛り上げられているせいもあって、馬乗りになられるとあまり抵抗にならなかった。 「や、あっ……」 京一の亀頭が温かいものに触れている。昴のため息のような呼吸に合わせて水音とともに京一が温かいものに抱きしめられていく。 視覚を奪われていることが、触れられている部分への感覚を鋭くさせているのか、温かく締め付けられるそこに熱が集まっていく。体は熱くなるのに反して思考は凍っているのかのようにうまく働かず、やがて心に虚しさが去来する。 「きょ……いち……さ、ん。泣いてるの?」 アイマスクが吸いきれなかった涙が溢れていたのか、昴が拭うように頬をなでてくれる。 「ごめんね」 そう言って頭を撫でてくれ、啄むようなキスをされる。なんでこんなことをするのだと言ってやりたかったが、キスをされながら自分のものではない熱いものがぽたぽたと顔に触れていることに気づいてしまった。 きっと昴も泣いているのだろうと気づいてしまう。 「……ねえ、高梨くん。この目隠しを取ってくれない?」 「高梨くんの顔が見たいんだ」 「……わかった」 少し迷う気配があったが、昴は素直にアイマスクをはずしてくれた。そして視界が眩しくてそろそろと目を開くと涙に濡れた昴の顔がそこにはあった。 拭ってあげたいという気持ちと、それを許されない今の状況に歯がゆさを感じ再び身体を捩ると、サイドテーブルの上に不自然に裏面のカメラレンズをこちらに向けた状態で立てかけられているスマホを見つけてしまった。 「……もしかして、これ……撮ってるの?」 昴の表情が歪んだのを見て、肯定だと察してしまう。 「何それ……ふざけんなよ!!」 胸糞の悪さから怒鳴ると昴はびくびくと怯える。 「い、今……多分、颯馬が……見てる」 見ているということは、スマホはきっとビデオ通話かなにかになっているのだろう。 京一には颯馬がなぜ昴にこんなことをさせているのか、昴もなぜこんなバカなことを受け入れているのかという思いもあるが、昴にとって颯馬は想い人だと考えると、好いた相手にこんなことをさせられているのかと思うと昴があまりにも可哀想に思えてきた。 「高梨くん……こんなことさせられても茅野のことが好きなの?」 京一は、飛鳥のことがずっと好きだった。幼い頃のこととはいえ、真っすぐに好きだと言ってくれた飛鳥がいたから、周りから距離を置かれていてもたった一人でも家族以外に愛された思い出があったから飛鳥にふさわしい人でいたいと思っていろんなことを頑張ってこれた。でも、昴の置かれている環境はどうだったのだろうかと考えてしまう。 「大切な相手にこんなことさせるってどう考えてもおかしいよ。俺なら、好きな相手はもっと大切にしてあげる」 どうせ何度も流されてこんなことをしている自分にはもう飛鳥を好きだという資格はない。 それなら、目の前で泣いているこの子を幸せにしてあげる方が、この子にとっても、この子を大切にしてきた飛鳥にとってもずっといいのではないかと思った。 「高梨くん。あんな男やめて、俺と付き合おう」

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