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第23話 勉強会2 視点:颯馬

なぜか放課後の教室に男三人で頭を突き合わせながら勉強をすることになった。 飛鳥からのキスを見返りの条件に2人に勉強を教えることになるわけだが、そのキスというのも頬にという子供の戯れかと思うような条件だ。 恋人になったという自覚があるのか疑いたくなるが、そんな条件を出してくるところですら可愛いと感じてしまうので参ってしまう。 「で、お前らはなんでそれぞれ違う教科書を取り出しているんだ……」 「やーだって俺は英語がさっぱりわかんねーんだもん!」 「僕は元々、今日は数学やろうと思ってたから!」 2人とも教科書をぐいぐいと押し付けてくる。 こういうところが似ているから2人は仲が良いのだろうなと感じるのだが、今はそういう方向性の仲の良さは余計である。 「俺は一人しかいないんだから違う教科を並行しては教えらんねーだろ……」 「えー!俺、絶対颯馬に英語教えてもらおうと思ってたのに!!」 雷斗が机を軽く揺らしながら抗議してくるが、雷斗はあくまでおまけである。 そして、声がでかい。 「七峰うるせぇ……」 「というか、そもそもいつもみたいに昴様のノート見れたら全然楽なのに~なんで2人とも喧嘩してんだよ」 その発言には頭に来てしまう。 気が付けば雷斗の胸倉を掴んでいた。 「な……颯馬急にどうしたんだよ」 雷斗が焦っている。その間抜け面を見るとつい一発殴りつけてやりたくなったが、拳を握りしめた方の腕に重さを感じる。 「そまくん!!」 飛鳥が腕を引っ張り咎めているのだとわかり、腕を下ろし、掴んでいた胸倉からも手を退けた。 「別に昴とは喧嘩してるわけじゃない。それに、七峰に飛鳥とのことをとやかく言われる筋合いはねぇ!」 苛立ちを隠すこともなく雷斗にぶつける。 「じゃあ何でいつも3人でいたのに昴様を仲間外れみたいにしてんだよ!」 さっきまで殴られそうになって焦っていたにもかかわらず苛立ちをぶつけられても、物怖じして話すことをやめようとしないところも飛鳥に似ていて余計に腹が立つ。 「っせーな!俺と飛鳥は今、付き合ってんだよ!!」 「なっ……そまくん!」 急にバラされて焦る飛鳥を見て胸の奥が締め付けられる。 「とりあえず、お前の要望通り英語教えてやるから余計な事話しかけるな」 2人の視線から目を逸らして、本来の目的を熟すことにした。 その後の勉強会は酷いものだった。3人とも基本的には無言で、たまに勉強に関する質問のようなものが飛び出すが勉強自体には集中できていないことが丸わかりだった。 特に雷斗はちらちらと飛鳥と颯馬をちらちらと見て様子をあからさまに窺っているのがわかり、飛鳥にとっては居心地の悪いことこの上ない空間だったろうと思う。 下校時刻になり、雷斗は「今日はありがとう、またな明日な」と挨拶だけして普通に帰っていったが、内心どう思ったのかは不明である。 飛鳥と2人でのろのろと駅に向かって歩き始める。ちらりと自分より背の低い飛鳥の横顔を窺うが、髪が邪魔で表情が読み取りにくい。 「勝手にバラしたこと怒ってるか?」 ストレートにそう尋ねると、飛鳥はこちらにちらりと視線を寄越し、優しく微笑む。 「ううん。びっくりはしたけど、そまくんは本当のこと言っただけでしょ?僕もらいくんには話しておいた方がいいのかなとは思ってたし」 いかにも飛鳥らしいセリフだと思った。 こうして事実を作ってしまえば丸め込まれてくれる性格を利用していると自覚しているが、欲しいものはどんな手段であっても手に入れられればいいとも思っている相手にはこうしてつけ込まれるぞと自分がつけ込む側でなければ口煩く言ってしまうところだ。 「そまくん」 考え事をしている間に腕を引かれ体が傾いた隙に、頬に柔らかく温かいものが触れる。 驚いて温かい感触がしたところに手を当てて、そちらを見ると、背伸びをして少し恥ずかしそうにしている飛鳥がいた。 「約束だったでしょ?」 頬を赤く染めているそんな姿にぐらっと来てしまう。 「お前ホント……」 飛鳥をこういう目で見始めたのはいつからだったかはよく覚えていないが、身長に差が出てきた頃には飛鳥のちょっとした仕草にイラついていた。小言を言っては鬱陶しがられるようになっていたが、やはりこれは他の誰かに見せたくはないという気持ちでいっぱいになる。 「少しだけ抱きしめていいか?」 「え……」 あいかわらずわかりやすい反応で躊躇しているが、じっと見つめたまま返事を待ってみせると、葛藤の末におずおずと両手を広げる。 「いいよ」 上目遣いになってこちらを見ているが、本人に自覚はないのだろうなと思うと尚更腕の中に隠して誰にも見せたくなくなる。 「飛鳥……好きだ」 それに対して返事はないが、背中をぽんぽんと優しく撫でてくれる温かい体に切なさと愛しさで胸がいっぱいになった。

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