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第24話 もうすぐ夏休み
テスト期間を何とか乗り切って、赤点による補習はギリギリ回避できたのは颯馬のおかげだと感謝しつつ、あとは夏休みを待つばかりとなった。
夏休みになれば水泳に打ち込める時間が増える。
喜びのあまり、テストの結果の一覧用紙を握りしめたままガッツポーズを決めていると、軽く肩を叩かれる。
「お!飛鳥もちゃんと赤点回避できたんだな?」
雷斗はあれ以来、颯馬や昴のことに触れず、いつもと同じ調子で話しかけてくれる。
噂が立つことや、気持ち悪がられて話しかけてももらえない可能性も考えていただけに拍子抜けしたほどだ。
「らいくん……これでちゃんと部活に集中できるね」
「おう、大会頑張ろうな!」
雷斗とそんな話をしていてふと気づく。
夏休みに入れば合宿も大会もある。颯馬との約束では、この夏いっぱいが颯馬との恋人でいる期限だが、正直今は水泳に集中したい気持ちであるためそんな状態で颯馬にちゃんと向き合えるのか心配になった。
部活も終わり、夏で日が長いとはいえ、すでに夕日が沈みかけて紫に染まる道を颯馬と一緒に歩く。
自分が失念していたことを素直に打ち明けると颯馬は呆れた顔でため息をつく。
「はぁ?お前そんなことも考えずに、あの時提案してきたのか?」
「うう……ごめん」
「まあ、いい。俺の方はそうなるだろうって予想して受けたんだからな」
恋人として過ごせる時間が少ないことにも文句を言わずにいてくれることに頭が下がる思いだ。
本当に申し訳なく思い、少し俯いてしまうと頭に優しく手を置かる。
「夏休みの課題も一人じゃ難しいだろ?手伝ってやる」
責められもせず、勉強に手が回らないことにも気にかけてくれる颯馬の優しさが今更身にしみる。3人でいた時には颯馬は口煩くて窮屈に思っていたが、なんだかんだでこうして面倒をみてくれるところに今は安心感さえ覚えている。
「あと、夏祭りは一緒に行きたい」
それは毎年どんなに忙しくてもその日だけは颯馬と昴と3人で出かけていた恒例行事だった。
「わかった。約束するね」
小指を立てて颯馬に差し出すと、小さく笑われた。
また、子どもっぽいと思って笑ったんだろうということが察せられて少しむくれてしまうが、颯馬も笑いながらも小指を絡めてくれる。
そんなやり取りをしていて、ふと頭を掠めるのは昴のことだった。
「ねえ……そまくん。僕、すばくんと仲直りできるのかな?」
指切りして約束するのもいつもなら子どもっぽいとバカにする颯馬とはではなく、昴とよくしていた。
今、颯馬が指切りをしてくれたのは昴がいない代わりになろうとしてくれたのではないかと思った。
「さあな……でも、俺はお前が悪いとは思ってないから」
「ありがとう。僕の言葉がすばくんを傷つけていたならそれはちゃんと謝らないといけないと思ってるから……ゆっくり話ができる機会ができればいいな」
そんなことを言うとお互いに沈黙が続き、しまったと思った。
「あ、そまくんはすばくんと教室でお話したりするの?」
「あー、いや……まあ。挨拶くらいはするけど、最近はよくスマホの画面見つめてることが多いから天賀谷と仲良くやってるんじゃないか?」
颯馬と昴の仲も以前より距離があるのを知ってしまったことと、京一の名前を出されると自分の立場としてはなんと反応するのが正解なのか迷ってしまって再び沈黙してしまう。
「あの……もし、そまくんとすばくんが、僕のせいで仲良くいられないのならきっと僕……自分のこと許せなくなると思うから……その」
「お前は関係ねーよ。天賀谷のことが気に食わねーからあいつの話を避けようとしたら昴と話す機会が減ったってだけだ」
その理由が全てではないとは思いつつも、嘘ではないことが何となくわかったので少しほっとした。
「そまくん……」
「ん?」
「手繋いでもいい?」
そう尋ねるとわかりやすく驚いた顔をされて笑いそうになる。
「ああ……どうぞ」
左手を差し出されて、その上に右手を重ねる。指の間に指を絡ませるように握ると、暑さのせいなのか颯馬の手はじっとりと汗ばんでいた。
繋いだ手から微かに感じる鼓動に沈黙も先ほどとは違い心地よさを感じながら駅に着くまで颯馬の手のぬくもりに包まれていた。
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