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第33話 心の奥の・・・ 視点:颯馬
情けなく夏風邪をひき、自分の咳で苦しみながら暗い部屋で目が醒ますと何件かの着信が残っていた。
そのほとんどが昴からで、飛鳥からの連絡はなかった。
試合がどうなったのか気になったが、勝つことが出来なかったのかもしれないと思い、何かメッセージでも送っておくべきなのか迷ったが、熱のせいか頭が働かないのでそのまま意識を手放した。
翌朝、カーテンの隙間から漏れる光に目をこじ開けられるとスマホの表示に気づく。
昴から「颯馬、風邪引いてるって聞いたけど、大丈夫?」というメッセージが届いていた。「咳で喉が痛い。あと、熱もなかなか下がらない」と正直に返信した。
それ以外のメッセージも着信もなく、内心がっかりしたが飛鳥が落ち込んでいるのなら励ますべきだと思った。本当は電話を掛けたかったが、風邪のせいで声が上手く出ないためメッセージを考える。
そうして何度かメッセージを送ってみたが飛鳥からの返事はない。そこから数日経ち少し喉の調子が良くなり電話をかけてみるが呼び出し音が鳴り響くばかりで繋がることはなかった。
さすがに様子がおかしいと思い、何度も着信を残していた昴にも電話をかけてみると、昴から飛鳥が今、入院しているという事実を知らされた。
飛鳥に大変なことがあったのに風邪をひいて異変に気づくことも出来なかった自分に苛立ちを覚えつつ、昴に病院まで案内をしてもらう約束を取り付けた。
飛鳥の姿を一秒でも早く確認したいという思いで昴との待ち合わせの20分前には駅に着いてしまった。
昴の話では、命に別状はないが骨を折っているので退院はまだ難しく、数日後の始業式には間に合わないということだった。
正直、飛鳥が元気でいてくれるのなら学校にしばらく来られないことくらいどうでもいいという気持ちだ。
そんなことを考えながら昴を待っていると、昴が駆けてきた。
「そ、颯馬……遅くなってごめん……」
「いや、俺が早く来すぎて……」
と、そこまで言って昴の後ろに見える影に気づいて言葉を止める。
「天賀谷……お前何しに来たんだよ」
「何って……俺も昴くんと一緒に飛鳥のお見舞いに行くんだけど?」
「はぁ?」
京一が一緒に行くとは聞かされていなかった上に、自分がここにいるのは当然のような言い方をされ、無性にイライラしてしまう。
「先に一緒に行く約束をしてたのは俺なんだから、案内のために昴くんを頼っただけの君に文句を言われる筋合いはないと思うけど?」
正論を言われるとなお腹が立つ。
電車に乗り込んだ後も、京一は昴と飛鳥の入院の状況について何か話をしていて、期間限定とはいえ恋人であるはずの自分よりも飛鳥の状況に詳しいことや、昴が話をする時に、自分や飛鳥と話す時よりも自然体で話ができている様子を目にして苛立ちが膨れ上がっていった。
「なあ……そもそも飛鳥は何で怪我したんだ?」
昴が京一とばかり話をしているのが気に入らず、知りたかったことを聞いてみる。
「え……あ……」
昴はもごもごと言いづらそうにして何があったのか全く分からない。
するとかわりに京一が口を開いた。
「飛鳥は、電車で痴漢に遭った子を助けようとして犯人を追いかけた時に、階段から落ちそうになった女の子を庇って怪我をしたんだ」
京一から説明を受けているのという状況は癪ではあったが、飛鳥の身に何があったのかはどうしても知りたかったため黙って経緯を聞くことにした。
「ちなみにその痴漢を疑われた男は、被害者が被害届を出していないし、飛鳥が落ちたことも直接何かをしたわけじゃないから罪に問うことはできない。追いかけられたから何をされるのか怖くて逃げただけだと言われれば否定のしようがないのが現状……」
「……」
飛鳥の置かれた立場を知り、腹の底から沸き立つ怒りを抑えられそうになかった。
「その相手ってどんな奴かはわかってるのか?」
その問いに対して京一は首を横に振る。
何もわからない状態なのかと、落胆しかけていると、「でも」と、京一が言葉を続ける。
「もしかしたら相手はこの人の可能性はない気になる人物がいて……今、飛鳥からの返事を待ってる……」
その言葉を聞いて思わず心が弾む。
相手がどんな奴かわかれば、法で裁くことはできなくても自分でその相手に飛鳥と同じ痛みを与えてやることができる。
「……颯馬……」
不意に腕に触れられ驚いたが、昴が不安そうにこちらを見つめている。
なぜ不安そうな顔をしているのか理解できなかったが、昴も飛鳥のことを心配しているということなのだろうかと納得することにした。
「とにかく、飛鳥からの返事を聞けばいいんだな?」
聞きたいことを聞けたので、あとはもう、一分一秒でも早く病院に着いて飛鳥の姿を見たくてたまらなかった。
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