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第34話 罪の行方
「いらっしゃい」
飛鳥は病室のベッドで見舞いに訪れた幼馴染達を出迎える。
にこにことしている自分とは対照的に、3人はお互いに目を合わせないようにしているのが伝わってきてどう反応していいか少し迷ってしまう。
「そまくん、ごめんね。勝ってくるって約束したのに守れなくて……風邪治ったの?」
まずはずっと会えずにいた颯馬に声を掛けると、颯馬に右手を握りしめられた。
「飛鳥……こんな怪我して、心配するだろ……」
「うん……そうだね。ごめん」
颯馬の表情が今まで見たことないほど悲しそうで本当に心配をかけてしまったのだなと、申し訳なく思った。
「そまくん……手を離してもう少しこっちに来て」
そう頼むと颯馬は素直にベッドサイドに近づく。
解放された右手を颯馬の首に回すと、そのまま引き寄せ頬にキスをする。
「僕、ちゃんと生きてるから……大丈夫だよ」
突然のことに茫然とする颯馬だったが、安心からか頬を雫が伝う。
「あす……か」
飛鳥の名を呼んだかと思うと、その次の音は飛鳥に飲み込ませるかのように颯馬は飛鳥の唇へと唇を重ねた。
「んっ……ふ」
少し苦しくて瞼を開け颯馬に訴えようと視線をずらすと京一と目が合った。
京一もなぜか泣きそうな表情をしていた。大丈夫だと伝えるつもりで笑ってみせたら目をそらされてしまう。
そのまま颯馬からの口づけを受けていると足に力が入ってしまう。
「いたっ……」
思わず口から出た言葉に颯馬はもちろん京一や昴も心配そうにこちらを見ている。
「ごめん、大丈夫だから」
はははと笑って見せると皆の表情が少し和らぐ。
「なあ、飛鳥。天賀谷から事情は聞いた。お前に怪我させた相手がどんな奴か教えてくれ。そしたら俺が何とかしてやる」
颯馬は真剣にそう言うが、瞳の奥に見える得体のしれない何かに不安を感じてしまう。
「そまくん……それってどういう……」
颯馬からの返事はなく、ただいつになく優しく微笑みを返されているのになぜか嫌な予感しかしない。
これは先に昴と話をするべきだと判断し、颯馬と京一に声をかける。
「ねえ、僕……すばくんと話をしたいから、そまくんときょーちゃんはコンビニに行って僕たちにお茶を買ってきてくれない?お財布がそこの引き出しに入ってるから……」
「いいよ、お茶くらいおごるよ。行こう、茅野」
颯馬は少し渋っていたが、京一が強引に颯馬を病室から連れ出してくれた。京一に任せておけば邪魔されることはないと思い、2人が出て行ってから少しして、昴に聞きたかったことを聞いてみる。
「すばくん……正直な気持ちを聞きたいんだけど、すばくんは痴漢してきた相手のことどう思ってるの?」
「お……俺は」
昴は言い淀むが、ずっと一緒にいたからわかる。これは話したいけどなんと言葉にすればいいかわからない時の反応だ。
「被害届……きっと僕の怪我がなくても出そうと思えば出せたんだよね?でも、僕がこうなるまで出さなかったのには理由があるんだよね?」
昴が答えやすいように、どういう意図で聞いているのかを明確にするため、さらに言葉を続ける。
「やっぱり、すばくんも家族や学校の人に知られたくないから?」
そう尋ねると昴の考えもまとまったのか、きちんと想いを形にしようとする。
「そ、それもある。けど……ずっと、俺は普通の人と違うんじゃないかって悩んでた……颯馬と再会してから、段々胸がぎゅって痛くなったり、夢の中で何度もえっちなことしたりして誰にも言えなくて怖かった。だから……痴漢された時も怖かったけど、変じゃないって受け入れてもらえたみたいで嬉しかったから……」
「そっか……」
どうして届出なかったのか一晩考えても昴の本当の気持ちにたどり着くことはできないと思い、直接聞いてみることにしたがこうして聞けたことですっきりした。
この写真の男がやったことは最低な犯罪だが、自分には気づけなかった昴の心を救ったという側面があることは間違いないのだ。
だとすれば、この男がしたことをどう罰するのか決める権利は自分ではなく昴にある。
自分が負った怪我を恨んで罰そうとするのは何か違うと思った。
「すばくん、この写真ありがとう。この人は僕が怪我した理由とは関係ないと思うから返しておくね」
昴は何か言いかけたが、それを言葉にはせず「うん」と返事をし、写真を鞄に仕舞う。
少しほっとした表情をしたのを見て、犯人はこの男だと言われた時にはこれからどうすればいいのか昴も不安で緊張していたのだと思った。
「ねえ、飛鳥……颯馬、大丈夫かな?」
今度は昴の方から話しかけてきた。昴から話しかけてくる時は本当に何か気にかかることがある時が多い。
「……すばくん、何か心配なことがあるの?」
「京一さんが……飛鳥に怪我をさせた相手がわかるかもしれないって話してた時……颯馬、笑ってた」
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