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第37話 退院

久しぶりに自宅に戻ると、肩の力が抜ける。 入院中は緊張していたのだとその時初めて気がついた。 長らく触れていなかった携帯には雷斗や幼馴染達からのメッセージが大量に溜まっており、3桁にも及ぶメッセージから本当に心配をかけたことに気がつきあらためて反省する。 退院してもまだ骨はくっついてはいないようで、母親1人での車椅子に移動させるのは難しく、ほとんどベッド上で過ごすことになる。 元々自分の部屋である2階へは上がることが出来ず、1階のリビング横の部屋で生活することになった。 1人でできないことが多く、母親の仕事も休ませてしまい申し訳ない気持ちになるが、1人で出来ないのだから今は甘えるしかないと思うようにしている。 最近は昴が毎日のように学校の課題を届けてくれる。 「ねえ、すばくん……最近そまくん元気にしてる?」 「……そ、颯馬?学校には来てるけど……話してないからわからない」 颯馬が学校に行っているということは、体調が悪いわけではないのだろう。それでも、あのお見舞い以降メッセージを送ってもあまり返信も来なくなり、最近は既読すらつかない。 「……あ、飛鳥も颯馬と話せてないの?」 「そうなんだ……僕、何かそまくんに嫌なことしちゃったのかなって……」 不安な気持ちを出すつもりはなかったが、思わず零れてしまうくらいには颯馬のことが気になっている。 「颯馬は、飛鳥のことずっと好きだったから、嫌いになったりしない」 「そっか……そうだといいな」 自分と同じくらい颯馬のことを見てきた昴の言葉を聞くことが出来、少し安心する。 昴が持ってきてくれた課題プリントの束に目を落とす。 新しい範囲の話ばかりで、プリントだけを見ていても答えが何なのかはわからない。 かといって、右手にペンを持ったまま、まだギプス固定をされている左手を使って教科書を器用に開くこともできない。 「飛鳥……勉強わからないなら、俺も一緒にやるから……」 最後はもごもごと言葉を飲み込んでしまうところが昴らしいが、学校に戻ってからも困らないように一緒に勉強をしようと誘ってくれているのだろう。その気持ちが嬉しくて仕方がない。 「ありがとう、すばくん。じゃあ、きょーちゃんとのデートがない時にでもお願いしようかな!」 冗談のつもりで言った言葉に、昴の顔が少し赤くなる。こういう表情が可愛いのだろうなと思ってしまう程度には自分も幼馴染バカだと笑ってしまう。 急に笑い出すと、今度は驚いておろおろしている昴は、言葉を出さなくても仕草や表情が雄弁に伝えてくれる。この愛らしい部分は、京一が引きだした本来の昴なのだろう。 少なくとも、自分や颯馬といるときはもっと表情の変化も多くはなく小さく縮こまっているイメージばかりだった。 「すばくん」 右手を伸ばすと、昴はベッドのそばへ近づいてくれる。頬に手を添えると、不思議な顔をして傾げる。 掌に少し重みを感じつつも、柔らかく温かい。 「僕、今のすばくんはとっても素敵だと思うよ。もっとすばくんの思ってること、僕にも教えて……」

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