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第38話 その日はいつか…… 視点:昴

飛鳥と勉強をする約束をして以降、日曜日と水曜日以外は飛鳥の家へ行っては色々なことを話した。 飛鳥の家を訪れると、車椅子に乗るのを手伝ったり、お風呂に入るのを手伝ったりと、飛鳥のお母さんも喜んでくれるので、あまり好きではなかった大きな身体も少し好きになれた気がした。 3ヶ月経った今も京一と颯馬が飛鳥の家に訪れることはなく、飛鳥はいつも寂しそうに笑っていた。 「飛鳥、さっきおばさんにそろそろ歩けるようになるかもしれないって聞いた」 「え……またそんなこと言ってるの?固定が取れるし、一応体重掛けてもいいっていう許可が出るかもって話でちゃんと歩けるかはリハビリ次第らしいから、いきなり前みたいに歩けるようにはならないよ」 「……そっか……」 完全に治るのだと思って喜んでいたので、実際はそうではないと知り落ち込んでしまう。 先に状態の良くなった飛鳥の左腕で優しく頭を撫でられる。 手はすっかり良くなったのだし、少し時間は掛かっても足もきっと良くなる。それまでは、飛鳥の手伝いをすればいい。 「学校にももうすぐ戻って来られるの?」 「……」 「飛鳥?」 いつもの飛鳥なら、どんな答えであれすぐに返事をくれるだけに、なんの返事もないことに不安になってしまう。 「……いつ戻れるかは……わかんない」 「飛鳥、まだどこか痛いの?俺、何か怪我に響くようなことしちゃった?」 「ううん。すばくんは何にも悪くないよ。それに、いっぱい助けてもらった……だから、そんな顔しないで」 飛鳥はそう言ってくれるが、それを言葉通り信じることは出来なかった。 泣いても飛鳥を困らせるだけだとぐっと涙をこらえる。 けど、飛鳥の反応が気になって、帰り際に飛鳥のお母さんにその事を聞いてみた。 飛鳥が答えを濁していたわけが、母親からの話でなんとなくわかった。飛鳥は両足とも怪我をしているので1人でトイレに行くこともできなかった。だから、無理に学校には行かず家で課題に取り組んでいた。 そして、もうすぐ飛鳥の足は動かせるようになる。いよいよ学校に戻れるようになると思っていたのだが、学校側からは設備がないので車椅子を使用して学校内を移動することはできないと言われてしまったのだという。そうなると、飛鳥の足の状態次第ではいつ学校に戻れるのかはわからない。 それに、ある教師は今焦って戻るよりも来年もう一度勉強し直してから受験を迎えたほうがいいと言ったそうだ。受験のことを考えればそれも確かに選択の1つではある。だが、それは同時に飛鳥とは一緒に卒業ができなくなるということだ。 飛鳥の置かれている状況を知って、どういう気持ちで受け止めていいのか悶々としているうちに、夜になりスマホが揺れる。 京一の名前を映すディスプレイをタップすると声が聞こえる。 「もしもし。こんばんは、今電話して大丈夫だった?」 京一の優しい声を聴くと少しホッとする。 「うん。大丈夫……」 「今日も飛鳥のところに行ってきたんだよね?元気そうにしていた?」 「……元気にはしてる……」 体調の話をしているのであれば元気には違いないが、飛鳥の今後のことを考えれば心も元気なのかは自信がなかった。 「昴くん、何があったのか聞いてもいい?」 「……飛鳥……俺たちと一緒に卒業出来ないかもしれない……」 京一に聞いた話をできる限りそのまま伝えると、長い沈黙が続く。 「茅野は何か言ってるの?」 「颯馬はたぶん、このことは知らないと思う……ずっと飛鳥に会いに来てないし、連絡も取れてないみたいだから」 「は?」 京一の声が少し怒気を帯びている気がした。二人きりで話している時にこんな声を聴いたのは初めてて驚いてしまう。 「ご……ごめん、昴くん。びっくりしたよね?」 「ううん。平気……」 「茅野のやつ……飛鳥のこと放っておくなんて何考えてるんだ……」 「でも、京一さんも飛鳥に会いに来ない……」 颯馬のことを悪く言われるのは少しむっとしてしまうし、何よりも飛鳥のいつもの寂しそうな表情を思い出すと胸が締め付けられるようでつい咎めるような言い方になってしまう。 「……確かにそうだね」 「……今度、昴くんと一緒に飛鳥の家に行ってもいいかな?」 京一が来てくれるのなら飛鳥もきっと喜ぶと思い、頷く。 「はは、そんなに勢いよく頷かなくてもわかるよ。……ごめんね。心配かけてしまってたみたいで……」 「ううん。飛鳥もきっと喜ぶ!」 「昴くん、俺が飛鳥に会いたいって言っただけなのに、今まで一番嬉しそうな顔してる……」 「そ、そんなことない……」 「どうして?俺はとてもいいことだと思うけど?」 一番嬉しいというのを認めてしまうと、京一に対して失礼なのではないかと否定してみたが、飛鳥にはまた前のように笑ってほしくて、京一や颯馬にも来てほしいとずっと思っていた。だから、それを素直に喜んでいいのだと言ってもらえると、ホッとする。 「ほ、ほんとは……嬉し……い。飛鳥ずっと寂しそうだったから……」 「京一さん。飛鳥に……連絡してもいい?」 「もちろんだよ。なかなか会いに行けなくてごめんって伝えておいてもらえるかな?」 京一がまた会いに行けば、飛鳥も今日より元気になってくれるはずだ。 それに、飛鳥はいつでも何とかしてきたのだからきっともうすぐいつもみたいに学校で会えば「おはよう」と笑顔で挨拶してくれる。

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