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「本当は背中の流し合いをしたり、キャッチボールしたり、腕枕をしてあげたり、色々したいんだよ!今まで出来なかった分!」
「腕枕は……どうかなと」
しっとりと落ち着いた雰囲気の院長はすっかり影を潜め、きゃあきゃあと女子高生のようにはしゃぐ姿に苦笑が漏れる。
けれど、幼い頃から父に憧憬を抱いていた自分には嬉しくて……
今、また顔が赤いんだろうなぁ……
そう思いながら酒に口をつけた。
「あぁそうそう。こんな時に聞くのも無粋だが……何か不便はないかね?」
「は?」
いきなりの言葉に意味を掴み損ねて間抜けな返事を返すと、深い深紅のワインを揺らしながら独り言のように呟く。
「職場で……こいつが意地悪してくるとか、こいつが気に食わないとかないかね?」
そう言う院長の目は、自分の権限をフル活用するぞ!と暗に物語っており……
仕事に私情はさみまくりなその顔に、先程の言葉はどこに行ったとかと笑いが漏れた。
「いえ!皆に良くしてもらって ま……す?」
思わず疑問系になる。
嘉納
思い出しただけでも、ぞくりと悪寒のようなモノが駆け上がる。
「うん?」
「あ、いえ!……ただ、嘉納先生って……無口ですよね」
「章くんかい?まぁ…愛想がある方じゃないよねぇ、でもあの子はいい子だよ。真面目だし」
こくりとワインで喉を潤す院長を見て、彼と親しいのかとぼんやりと思う。
「なかなか苦労もしているしねぇ。特に三年前にお兄さんを亡くしてからは……まぁ、あれで子供受けは中々のものなんだ。悪い子ではないよ」
院長の言葉と、今日のあの出来事を照らし合わせるが一致せず……
曖昧な笑みを浮かべながら頷くしか出来なかった。
嘉納とは会話をしたことすら碌にない、そんな関わりだ。
飲み会にも滅多に参加せず、一度忘年会だかなんだかで隣り合ったのが一番の接触だった。
進んで人の輪の中に入るタイプでもないし、だからと協調性がないわけでも孤立するタイプでもない。
ただの同僚と言ったところだ。
そんな男に体中を触られ、あらぬ場所が性感帯だと教えられ、ざわざわとした悪寒に跳ね起きた。
「ぅ……あっ!!」
舞った毛布が再び体温に馴染むまで、何があったのか分からなかった。
「 は はは……」
酒を飲んだ翌日の気だるい体。
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