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『痛み止です』  ロッカーで身形を整え直している時に再び現れた嘉納は、そう言って薬の袋をオレに手渡した。  わざわざオレの為に処方したのかと、感謝の言葉を言おうとして正気に返る。  ずきずきと痛む後ろの痛みの原因はこいつだった。 「れ……礼は 言わないからなっ」 「はい」  そう簡潔に返すが、嘉納はそこから動かない。  ネクタイも整え、埃も払い、することが無くなった。 「……じゃあ」  扉の前に立つ嘉納をすり抜けて行こうとした手を掴まれ、はっと立ち竦む。  熱い掌に包まれた手首が火傷しそうに思えて…… 「離せ!」  慌てて振り払った。  どっどっと早い脈が胸を打つ。  落ち着いたと思っていた体がまたザワザワと震え出すのが分かり、慌てて壁へと逃げた。  嘉納の視線が、捕まえるように後を追ってくる。  見られている  ただそれだけの筈が、嘉納に見られながら達した事を思い出させ、オレから落ち着きをなくさせる。 「お詫びに、食事でもいかがですか?」 「   はぁ!?」  幾ら気持ちよさに流されたとは言え、あんな事をされた詫びがただの食事!? 「食事だとか言う前に、謝るべきじゃないんですか!?」 「……コンドームをつけなくて申し訳ない」 「そこじゃねぇよ!」  どんっと壁を叩くが、嘉納の顔は変わらない。 「強姦だろうが!!」 「強姦は成立しません。強いて言うなら強制猥褻罪か準強姦でしょうか」  さらりと流した嘉納の腕が、オレを縫い止めるように壁に突かれた。 「謝りませんよ」  ふ……とミントの息が頬をくすぐる。 「ナカ出しした事以外」  細められた目に射竦められてカチリと歯が鳴った。  ぶるぶると震える唇に熱い嘉納の唇が重なって……  熱が伝わって震えが、止まった。 「  や、止めてくれ!!」  どんっと渾身の力を込めて突き飛ばす。  咄嗟の反撃で対応出来なかったのか、嘉納がよろめいた。 「待……っ」  嘉納の声を振り切り、怯んだ隙に扉を蹴破るように開けて廊下へと飛び出した。 「────!!」  どんっと体が何かにぶつかってたたらを踏む。 「谷先生?」  柔らかく耳を打つ低い声に、慌ててぶつかった相手を見上げた。  声の通りの、柔和で渋い顔が飛び出してきたオレをビックリしたように見ていた。 「か、鏑木院長!す すみませんっ」 「あぁいや。いいよ。それよりどうしたのかね?」  肩を掴まれ、至近距離で顔を覗かれて顔がみるみる赤くなるのが分かる。  どうしてこんなところを見られてしまったのか……

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