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「まぁ男同士なんだけどね」
言われてギクッとなる。
嘉納との事を言われた訳でもないのに、やましさからか目が泳いだ。
オレは、被害者なんだから負い目に感じる事なんてない筈なのに、共犯的罪悪感があるのはどうしてなんだろうか?
「 」
嘉納に見られながらイった時の事を思い出して背筋にぶるりと震えが走った。
ふ……と漏れた息が熱い。
「やっぱり具合悪いの?」
「 え、……いや、大丈夫」
そう答えて、先程の震えは悪寒だと自分に言い聞かせた。
ロッカーに貼り付けられたメモに気付いて取り上げる。
堅く丁寧に書かれた文字は嘉納の仏頂面をそのまま現しているようで、ムカついて握り潰す。
「誰が連絡するか!」
痛み止が切れたのか叫んだ拍子にずきりと痛みが体を襲う、緩く息を吐いてそれを逃しながら、嘉納に見つからないうちにと急いで帰宅した。
自宅の玄関に入った瞬間、前回のように腰が抜けた。
「いたっ!!」
ドシンと突いた尻に痛みが走り、悶絶して突っ伏した。
嘉納が割り開いたソコの痛みが、今更ながらに病院で起こった事を思い起こさせ……
顔を覆った手がぶるぶると震えた。
自分が一番安堵出来る場所に帰ってきたから、張っていた何かが緩み、衝撃と、羞恥と、怒りと…様々な物がない交ぜになった感情が湧き出す。
「────っ」
どんと拳を降り下ろすが、すっきりするどころか逆に手に痛みが走り、呻くことになった。
「ぅ~っ!!」
ぼろりと涙が出る。
嘉納の手技に逆らえなかった自分に嫌悪が湧き、結局自分自身で弄り淫蕩に耽った事実が情けなく、嘉納がした事よりもそちらの方がショックだった。
貴方は気持ちいいことに弱いから
かつて陵子に言われた言葉が頭を過る。
「 弱いにしたって……弱すぎだ 」
男にヤられて気持ちよかった……
そんな事、認める訳にいかない。
連絡をしなかったとしても、顔を合わせないようにしたとしても、同じ病院に勤めている以上どうしても遭遇する確率は高い。
遠目に見えた途端逃げ出したり、物陰に隠れたりしてはいたが、それにも限度があり……
結局掴まった。
仮眠室に連れ込まれ、壁に押し付けられて見下ろされると、あの時の事が思い起こされて……
「連絡を待っていました。メモを残してあったでしょう?」
「捨てました」
「 何故?」
僅かな間の後に返された言葉は、本当にどうしてだ?と言う感情が含まれており、その無神経さにムカッときた。
「嘉納先生に強姦されて……」
「強制猥褻です」
「っ されて、なんで連絡なんかとらなくちゃいけないんだ!!顔を合わせるのも不愉快なのに!」
肩を押さえていた手が腰を抱く。
「では、後背位にしましょうか?」
「聞け!人の話っ!」
くるりと体を回転させられ、背中にふわりと暖かな体温が覆い被さる。
包み込まれる温もりに、思わずほっと肩の力が抜けた。
「確かに、強制猥褻でしたが 貴方は感じていた」
ぐっと言葉が詰まる。
加害者らしい責任転嫁の台詞に聞こえたが、嘉納を強く責めきれないのは事実、ソレがあったからだった。
「今も貴方は私の腕の中から逃げないでしょう?」
思わずビクッと跳ねると、嘉納との間に隙間が出来て背中がひやりと冷たくなった。
それに空虚さを感じるなんて……
「何故?」
「───っ。それは! 力で来られたら、負けるのが分かっているから」
では と、項に温かい物が押し当たる。
柔らかなそれが、ペロリと舐め上げる感触に身震いが起こった。
「どうして、赤くなってるんですか?」
「た、体質だ!!」
「どうして、震えているんですか?」
「あんたに怯えてるんだよ!」
「どうして──」
赤ずきんと狼の問答を思い出した瞬間、ミントの息が耳をくすぐって歯が耳朶に当たった。
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