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「…ぅ……」  ぞわりとするその感覚が気持ちイイ…  慣れた手つきでコンドームを処理し、ゴミ箱に投げ捨てた嘉納の腕を引く。 「なぁ…」 「何か?」  廊下で声をかけたのではあるまいし、先程まで抱き合っていたのだからもう少し感情の籠った声でもいいんじゃなかろうか!?  女ではあるまいし、甘い言葉を期待したんじゃないが… 「……別に。何でもない」  ただ、余りにもあっさりと離れられて少しだけ寂しさを感じただけだ。  仮にも肌を合わせたのだから…そう思うのは、思考が乙女過ぎるか…? 「…………抱き締めても?」 「へ!?」  言葉に出ていたかと、思わず口を押さえた。 「嫌なら別に構いません」  咄嗟に口を押さえたオレの行動をどう思ったか分からない。  分からないが、ふぃと逸らされた瞳の奥に滲んだ感情が恥ずかしそうだったのだけは読み取れた。  女役をやったからと、女のように扱われたい訳ではないが…  自分より逞しい腕にぎゅっと抱き締められる安堵感は、病み付きになりそうな気持ちよさだった。  結局、あの気持ちよさは病み付きになって…  病院傍の蕎麦屋で院長がにこにこしながら山菜蕎麦を啜る。 「ここの蕎麦が好きでねぇ」  見た目のダンディさから洋食を好むかと思いきや、意外と和食好きだが、ひとこと言わせてもらうと 似合わない。  ざる蕎麦を啜りながら、やけににこにこしているの顔を眺める。 「あ…の……院長、私に何かお話でも…?」 「二人きりの時は?」  そう言って手をトントンと叩かれた。  安易にそうやって触れてくるのはよくない事だと言っているのに、聞く気があるのだかないのだか… 「と、父さん、何か…話?」  わざわざ人の少ない、店の隅の隅の二人席に陣取ったのは離さなければいけない何かがあるのだろうか? 「そう、大事な話なんだけど」  意味ありげな目がオレを見て細められ、それを受け止めたせいかゾクッとした悪寒が背筋に走る。  心当たりが、ない訳じゃなかった。 「大事な  」  嘉納が与えてきた初めて感じるあの快感はまるで麻薬のようで…禁断症状にもがくように、嘉納のピクリともしない仏頂面を見たくて堪らなくなっていた。  そう、例えソレが職場であったとしても だ。  初めての時がそうだったようにリネン室や仮眠室で……  事に及ぶまでは出来なかったけれど、腕に抱かれたり唇を合わせたりした。  盛りのついた学生ではあるまいし、公共の場では慎まなければと思うも、チリ と感じる嘉納の欲望にすぐに煽られた。

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