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 いや、オレの欲望だったのかもしれない。  相手に触れていたいと言う思いが、後から後からふつふつと沸いてくるのだ。  微かに触れた指先がじんわりと熱を持って…  苦しくなる。 「話って言うのはー……」  院長の声に意識を引きずり戻されながら姿勢を正した。  触れ合う際は周りに人目が無いことを重々確認していたが、誰かに見られていたのかもしれない。  場所にしても、  立場にしても、  性別にしても、  倫理的に問題があるのは痛い程に分かる。  院長として、そう言ったことが見過ごせないと言うのも… 「お付き合いしている人、出来たかな?」  どきっと心臓が跳ねる。  嘉納との事をオブラートに包んで聞かれているのかもしれないと思ったのと……  お付き合い  その言葉に今更ながらに焦った。  お付き合い?  自分で繰り返しておきながら、顔が赤くなるのを感じる。 「翔希が近頃、凄く生き生きして見えるから」 「生き生き ですか?」  ぽかんと繰り返す。 「うん。何か幸せそうだから、お付き合いしている人が出来たのかな、と思ってね」  優しく微笑む顔は父親の表情だ。  努めて浮き足立たないようにしていた、むしろ、看護婦達には機嫌が悪いとさえ言われていた筈なのに気付かれた。  それが少しくすぐったくて、見てもらえているのだと思うと顔が赤くなる。 「図星?」 「い、いえ、あの……」  赤くなった顔をそう取ったのだろうか?  ぎゅっと手を握り締めてくる。 「翔希の恋人は、どんな人だい?」  恋人…  恋人?  はたと繰り返す。  流され、絡められるように関係を持ち続けてはいたが……  恋人 なのだろうか?  むっつりとした嘉納の顔を思い浮かべて、微かに感じた胸のくすぐったさに身をよじった。  内に湧く感情に戸惑いを覚えると共に、気持ちが良かったからと言って関係を続けていた理由の欠片を見つけた気がして自然と笑みが浮かぶ。 「いい顔だ。素敵な人なんだろうねぇ」  素敵な とは、あの仏頂面では言いにくいが、抱き締めてくれる腕とか、熱っぽく求めて来る姿とか…

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