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第13話
何より先輩が驚いて、岸先輩が驚かずに褒めている。これは篠田の「秘密の特訓」を知っているからに違いない。
高崎先生も口をぱっくり開けているので、篠田と岸先輩が秘密裏に行なった犯行だ。
「やるな。もっかい見せてくれ」
顧問は篠田の立つエンドライン付近まで下がって、観察しようとスタンバイしている。
「篠田もう一本!!」ベンチ側の先輩が手を叩いて、盛り上げる。
「岸はレギュラー側に行ってろ。交代の準備だ」
刹那的に緊張が走る。篠田のサーブが取れなければ、交代させられる。
(きっと、俺とだ)
「……」
掌の脂汗を握りしめる。
——なぜここで交代したくないと思っているのか、八島自身わからない。自分よりもセンスと経験を兼ね揃えた岸先輩と交代するのは、本望的だといえる。
——だが、このシチュエーションでは交代させられない。
コート外のすぐ傍で岸先輩が見ている。「八島。上で対応した方が楽だよ」耳打ちのように自身の口元に手を当てている。
それが可愛らしいと感じる前に、篠田が片手でトスを上げ始めている。
岸先輩と真逆の考えでアンダーで取っていたが、素直に次に繰り出される高速回転のドライブのかかったサーブに、オーバーハンドパスを使って回転を殺し捌いてみせた。
これで、スパイカー全員が攻撃に参加できる。それも時間的に早く。
下で構えるのと、上で構えるのとではボールを触るタイミングが圧倒的に、上の方が早い。その分攻撃までの着手が早まる。
その状況でクイックなどを繰り出すことができれば、あっという間に「カウンター」の出来上がりだ。
しかも、岸先輩と篠田のスパイク練習で連携としてやっているところを見たことがある。
しかし、セッターが上げたのは、大きなセンタートス。これではブロックについてください、と自ら誘っているようだ。
相手側にブロックなどはついていないため、打ち込んで、それで終わる。
納得のいかない八島は「……すんません、今の、クイックで合わせてもらっていいスか」と高圧的とも取れる言葉で新任セッターの多田に訴えた。
「え? 俺らそんな高度なこと合わせたことなかったじゃん」
「でも、今練習しとかないと、練習試合で使い物にならないじゃないスか。俺が」
「——っあ、ああ。そうだな。俺も次から頑張ってみるわ」
「お願いします」
「岸先輩はできるんでしょ?」とセッターに追い討ちをかけた。八島は高崎先生からこの方法で火をつけられ、今日この場所に立っている。
誰もがその手法であれば、なにくそ根性を発揮するものだと信じて疑わなかった。
次のサーブも篠田が打ってきた。だが、もう慣れた。
球速が速くて回転量が多少多いが、そこに重さは感じられない。だから、オーバーでトチって後ろに弾いてしまうことがない。
(どうせ、俺に——)
「っ?!」
「高良!!」
サーブは八島から大きく逸れて、八島が絶対関与できないサイド方面に打ち込まれた。
だが、都合がいい。クイックに合わせやすくなった。
(要は、セッターがトスを上げ終わった瞬間に、俺が打てる状態になっていればいいんだろ)
「クイック!!」
声を張り上げてセッターに伝える。
高良のレセプション(レシーブ)も申し分ない高さでセッターへ返ってきている。
(よし、いける)
セッターの多田は何度もズボンに手の内を擦って汗を拭う。
「篠田、俺のフォロー」
「っ?! はい」
八島が飛んでから、セッターはそれに合わせてボールの下にしっかりと潜り込んでトスを上げた。
初めて合わせた割に、スパイカーとしてはあまり文句のないところに上がってきた。
それをはたくようにボールを叩いた。これは、ネットに近いクイックの打ち方だ。篠田のモノマネだが、学習は模倣から始まるということで、不問にした。
しかし、八島が飛んだ高さよりもさらにもう一回り上から手が伸びていた。それも覆うように。
ドシャッ、と高崎先生の一枚ブロックに見事に捕まったわけた。
「クイックって大声でいうからそうなる。連携の練習はまだしてなかったが、いい判断だ」と高崎先生は久々に腕を大きく伸ばしたからか、肩を回してアフターケアをして言う。
その後ろでフォローについていた篠田も少し眉が上に上がっている。
予想打にしなかった展開だ。
「よし、多田と八島は抜けろ。連携の練習を個別にやる。俺が教えるから、抜けた分は——篠田と岸、お前らが入って、残りはサーブを打ってやれ」
付け加えて「あ、こっちのブロックも3人ついとけよー。ミドルブロッカーはお互い目の前の相手をよく見とけよ」とベンチ側とレギュラー側の亀裂を深める煽り方をした(実際のゲームも目の前の相手をマークすることが基本なので、高崎先生が煽って言ったことではないことが後に発覚した)。
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