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第15話——篠田広大——

 高崎先生の言葉に耳を疑った。顧問自ら八島の土壇場クイックにブロックし、そのフォローについていた篠田は特に耳に残って、こびりついて不快だ。  篠田はおろか、岸先輩までも「穴埋め」呼ばわりしているように聞こえてならない。  交代を言い渡されてネットを潜り、レギュラー陣に入り込む。アウェーな空気は当たり前だが、八島が平然としているのが妙に腹立たしい。  八島のポジションと入れ替わる際に肩をぶつけて舌打ちをする。    分かりやすい小姑のような真似だが、これ以上は岸先輩がコートインしてきたので自重する。  「篠田、あの子まだまだサーブに自信なさげだから、もしかしたらネットインすれすれしか打てないかも。その時は俺が一本目だから、セットアップ頼むね」岸先輩はそういって、篠田とタッチを交わした。  多少のアウェー感は岸先輩が入ったことで、安定感をもたらしている。どことなく、ピリついている感じが薄まっているのだ。  おそらく、岸先輩に全幅の信頼を寄せているからに違いない。みんな、レギュラーやベンチという陽の目に限らず、岸先輩の能力の高さを買っていた。  程なくして、フローターサーブを打ってきた。   (岸先輩の言う通りになったな)  ブロックを一枚もつけることなくレフトに打たせることができた。  「え、篠田、小学時代はセッターだったのか? 一度だけじゃなく二度もセッタープレーができるなんて」プレーが一段落して、どよめくメンバーたち。嘲り笑いたいところだが、岸先輩の御前だ。 「いえ、一応スパイカーやらせてもらってました。というか、岸先輩の囮が効いてたから成功したんですよ。そんなことにも——」 「篠田」 「……」  「ナイスセッター」岸先輩がタッチを求めてくる。 「……岸先輩」 「俺はこれでいい。楽しいよ」  ぱん、音を立ててタッチに返した。   「っし! なんか、岸と篠田にレギュラーとられるなんて怯えんの馬鹿馬鹿しくなったわ」 「まぁ、悪足掻きはさせてもらうけど」 「そうだなぁー。俺らってチームで勝ちたいんだよな、根本は」  「最善のメンバーを作るための争奪戦だもんな」と結論づけられた先輩たち。 「そうだな 、篠田が実は期待の新人だということはよぉく分かったから、次も頼むなー」 「……いえ、だから、僕は岸先輩のお陰で——」  「次は篠田に上げるからなー」岸先輩はまるで篠田の話を聞かない。  話の腰をバキバキに折っていっては、一応は拾い集めてくれるらしい。「篠田、次も頼むよ」と。 「とか言って、誰に上げるか分かんねぇから気を付けろよ、篠田。岸はサインなしでくっからよ」  先輩に肩を組まれる。馴れ馴れしい。 (……んなの、知ってる! サインなしでもアンタらがやって来れたのは、岸先輩がどれだけの技量を持ってなし得てんのか分かってんのか!)  歯噛みして、乱暴に組まれる肩の不快さに耐えた。 「サーブ交代なー」  顧問が、エンドラインに立つサーバーと交代し、顧問自らボールを手に構え出した。   「ほら、次いくぞー」  すると、篠田と同様に片手でトスを上げた。 「ドライブサーブ!!」  みんなが声を掛け合って、情報の共有をする。  だが、その情報共有をする時間を与えてもらえず、すぐに豪速球ともいえる球が飛んできた。  誰もがとったことの無い速さ、重さ、回転量だ。しかも狙い目が岸先輩だ。現在のローテーションでは岸先輩は後衛にいる。サーブがネットを超えてポジションの制限が解除される段階で、ようやく岸先輩が動ける。  それまでは一本目のレセプションを触らないように前衛ポジションのプレイヤーを超えないよう真横(気持ち後ろにいる方が正しく、審判にも睨まれない)に張り付く。後衛に行かない代わりに前衛のプレイヤーに張り付くので、セッターが走り抜けるところが弱点だということは周知の事実である。  顧問はそこを狙ってきたのだ。  さぁ、どうする。

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