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第21話——日向翔——

 日向は職員朝礼前に、一本の電話を入れた。  「あ、もしもし、お世話になっております。枇杷中男子バレー部顧問の日向なんですけども」とテンプレをつらつら述べた後、人気の少ない校舎裏に移動していう。「おい高崎、今日飲みに行かねぇ?」。 「はぁ?! 朝一番から何を使って言ってんだよ!! それ、絶対職場用の携帯だろ!!」 「口実作んないと、出てくれないだろうと思いまして」 「……っち」 「今日、永徳《そっち》に迎え行くから。部活終わりは職員室に待機しとけよ」  拒否の言葉聞こえてきそうなので、いい逃げるように通話を切る。  案の定、納得のいっていない声が聞こえた。  「はぁ」日向は朝から鬱屈とした表情を浮かべる。 「先生ぇ、さっきの彼女ー?」 「え」 「へへ、聞いちゃったー」  女生徒がこっそり壁側から顔を覗かせ、にんまりしている。 「何々、喧嘩して学校きたのー?」 「そうじゃない、いいからさっさと戻れ。俺もそろそろ職員会議の時間だ」 「えー教えてくれたっていいじゃんケチー」 「ハイハイ、お嬢さん方の方が何倍もマシなツンデレな奴とちょっと揉めました! これでいいだろ」 「ひゃー、日向先生結構オラオラだから、きっとさっきの電話でキュンキュンしてるよー!! 迎え行くから待ってろ、だってさ!!」  彼女らの詮索が面倒になってきて、「付き合ってはないんだよ。俺が好きなだけ。だから、俺らが成就するまでは秘密にしてくれないか。その後は噂でもなんでもばら撒いていいからさ」一人の女生徒の髪をくしゃくしゃにしていった。    仕事用の携帯をポケットにしまい、職員室に入る前に緩めていたネクタイを襟元まで締め上げる。  枇杷中に異動になってから五年が経っても、初めて配属された学校のことは忘れもしない。それから、中学生という多感な時期における子供《がき》の恐ろしさも。  公務員といっても高給取りではない教員生活は、時間に追われる日々だ。部活の時間も手当が出れば、とたらればを垂れる暇もなく授業は始まり、気が抜けないまま部活の時間になる。  放課後、体育館に向かうと、既にネットを張って走り込みをしている日向の部員たちがいる。 (相変わらずここの子達は素直で部活動に熱いよなぁ……)  日向の存在に気づいた主将が即座に集合をかける。慕ってくれているようで、部活以外の相談を受けたこともある。  つまり、枇杷中は「大人しい」市立中学だった。 「来年の中体連までに、スピードバレーを展開しようと思っていることは知っていると思うが、経験も必要と言うことで、練習試合を持ちかけようと思う。そこで、相手は永徳を考えている」  「私立の、ですか」と部員の声が、石ころのようにころんと降ってくる。 「ああ」 「失礼ですが、そこの戦績はどうなっているんですか? 聞いたこともなくて」 「そうだな……俺も大して知らない。と言うことは無名どころだろうな」  「だが、逆に得体の知れないチームであると言うことも忘れるなよ。いつも試合しているチームより戦いづらいし、きっと調子も狂うぞ。そういった意味では今後勝ち抜いた先で、得体の知れないチームと戦うことの順応を早くする目的がある。合理的だろう。何より、偏差値六十越えの頭脳派集団だからな、油断をすると痛い目を見るかもな。」と解説してやる。 (悪い子たちじゃないんだが、人を選ぶきらいがあるからうまく操縦してやんねぇとな) 「たしかに、これからは知らないチームと試合する機会が増えるかも知れないんだと思えば、無名でも何でも順応性を高めると言う意味で、経験は必要ですね」 「ま、その約束を今日取り付けるつもりだから、断られたら、この話は聞かなかったことにしてくれ」  目が点になる部員たちにさらに「今日全力で口説き落としてくるから、練習試合できるように家帰ったら祈願しといてくれよ」とウィンクをした。

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