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第27話
「人が離れる理由なんて、割と簡単なもの」とにこやかに話す。言動がちぐはぐで、真意を隠そうとしていると察しがつく。顔は見えないままだが、トーンを上げて冗談めかすあたり、過去のやらかした笑い話にして昇華したくてたまらないのだろう。
「それが怖くなって目立つことはしなくなったけど、バレーはまだしたかったから今の俺がいるんだよねー」
「そうなんスねー」
「……え?」
「はい?」
「ん、いや、それだけ?」
「それだけって……秘密聞けて良かったっス?」
「えぇー……」
「——じゃあ……性格変えてみてどうでしたか。正解でしたか」
(まぁ、俺を誘った時点で不正解だろうが)
岸先輩は「また斜め上からの質問だなぁ」と苦笑していった。「まぁ、正解とは言えないけど、不正解でもなかったよ。結果オーライでも不正解じゃなかった」。
「八島のことを軽い気持ちでスターになるだろうなって思ってたから、本当に成り上がって行ってるんだもん。心配はしてしまうけど、応援ももっとしたくなった! 誘う俺の気持ちさえ違えば、後悔なんて微塵も感じなくて済んだのになぁー。つくづく、俺がアホだった」
「まさにサクセスストーリー!」岸先輩は両手を伸ばして、掌を広げた。やはり、手も小さい。
「……俺、一個聞きたいことが増えたんだったの忘れてたよ」
乾いた息をこぼして「どうやって此処の中学に進学できた? 多田がさ、八島のことで頭抱えててさ。学力がどうのって——」という。
八島は以前も似たようなことを二人ほどに疑われたと回顧するが、結論は「俺にもよく分からないんスよ。まぐれとしか言いようがないっス」だ。
「そう……ま、まぁ赤点取ってなきゃ問題ないもんな……」
「っス! 私立に行けば、頭のいい連中しかいないから、少しは女の絡みもマシになると思って来たっス」
「またまた動機が、すごく羨ましい限りというか……あ、それで放課後潰れる部活に入ったわけだ!」
岸先輩は頭の回転もいいらしい。「でも、それなら幽霊部員でやり過ごす事もできた? のかな」。
痛いところをつくので、通常運転の仏頂面で感情のコントロールをしてから答えた。「それは俺も最近考えてた……。負けず嫌いなところがあるにしろ、毎日三kmの走り込みして体力を作ってまで真剣にしてんのか」。
「へ?! そんなんやってんの?」
「っス。高崎先生に欠かさずやってみろって。そしたら練習についていけるようになったし、飛んだ時にネットの位置が下がって、相手コートが見やすくなったんスよ」
(それだけじゃないだろ、俺)
忘れかけていた嫌な動悸が再開する。この調子では岸先輩にバレてしまいそうだ。
「それと……心配ばかりする俺とは正反対で、コンビのように篠田を扱って仲良くしてるとこ、が羨ましかったから……俺もそうされるように、早く追いつけるように」
八島の髪を乱雑にかき乱して、「だから夏休みの中盤から急成長したんだね!!」嬉々としていう。親に褒められているようだ。
心がじんわりと温まり動悸も悪化する一方で、触られている髪が気持ちいい。
「……岸先輩にこうして褒めて欲しいから、俺、辞めない」
八島の言葉で岸先輩の動く手はぴたりと止まって、煩慮の念たっぷりに彼の眼を見る。
答え次第では、バレー部退部も致し方無い。無責任な行動を取った自覚がある。
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