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第40話
「つまり、俺も多田も、同じ数だけ手数があるということなんだ。だから、俺も俺でちゃんと手強いライバルがいるというわけさ」
「それで堂々と勝ち取ってくれるんスか」
「俺は派手は好きじゃないんだ。だから、本当は篠田が要求してきた無茶な速攻にも応えるつもりはなかったんだけど、つい、ね」
「それは分かったっス。セッターの性ということにしとくっス。じゃあ、今年の中体連は岸さんと出ることは今の所保留にしておきます。——でも! 俺……」
やんわり外させたはずの腕を再度掴まれて、「篠田、篠田、言うのやめてもらっていいっスか」と凛とした眼差しで岸を見た。
「今やっと気持ち落ちいてきたんで、言えるんだけど。俺、岸さんのこと好きだ」
無表情が常の彼が、今、若干の頬の赤みを出しながら、「岸さんの気持ちがコートの上にいかなくても、俺だけは岸さんの秘密を守り続けるし楽しくバレーやってるとこ見ていたいっス」と口を尖らせる。
ちぐはぐな表情でも、岸には正しく八島の想いが伝わる。
「——腑に落ちた」
岸は妙に納得のいく顔をして、八島の告白に答えた。「俺はきっと八島を心配していた頃からずっと好きだよ」。
「岸さんっ——!!」
岸の返事を返す刀のように、体格差のある岸を八島は壁側に追い込んで抱きしめた。性急だったが、それを甘受してまだ十四歳なのにしっかりと大きな背中に手を回す。
「っ岸さん、岸さん!」
制服に着替えている八島はまだ軽装の岸のシャツをたくし上げながら、薄い腰から背中まで一気に撫でた。あまりにも手慣れた手つきで背中に迷いなく手が上がってきたので、少し興が醒めそうになる。
だが、八島は興奮していて早いスピードでことを致そうとする。
「岸ー? どこだー? ちょっとセットアップ手伝ってくれー」体育館に戻ってきたのか、多田の声がする。
「八島」
彼の頬をぺちと包んで、正気に戻すと「がっつきすぎ」と頭をくしゃくしゃに撫で回した。
「すみません……俺、もう少しここに残ってから出るんで、岸さん先に出てください」
「……」
未だ男の顔をした後輩を今度は正面からまじまじと見つめて、改めて八島のルックスの良さを再確認せざるを得なかった。
「わかった、俺が先に出て多田を連れて行くから、その後出るんだよ」と息の荒い八島にいう。
「それから、俺も好きだって言ったのにさ……ちゅーもせずに体にがっつくって、もしかして八島って、そういうお友達がいたことあったの?」
少し嫌味も込めて言ったつもりだった。だから、言い逃げするように更衣室を出て多田の元へ走っていった。
多田が「八島のやつそろそろ速攻を合わせられるまでになったか」と岸と話すにしては張り上げた声で喋る。
「俺の標準はアイツだから、要求全部応えられるようになるまで結構時間かかったけど、これなら八島も少しは俺を敬うかなー!!」
「アイツだけは俺を敬わないと俺の気が済まねぇしよー!!」と続け様にいう。
「多田……ここには俺以外誰もいないんだし、もうちょっと静かに話してよ」
「八島もいるんだろー」
鈍器で殴打されたような心音が鳴って、それから「出てこい!」という命令にさらに心音は回数と速さに拍車がかかった。
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