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第41話——八島俊介——
「八島!! 早く出てこい!」
多田先輩の声が聞こえているのは分かっている。出てこれない理由があるだけで。「……っ、多田先輩鬼畜野郎だな」。
「八島!! 十秒待ってやる! その間に出てこなかったら、大声で屋上での話言うからなー」
壁に凭れて下腹部に集中する。多田先輩の脅迫は、もはや脅迫にならない。
「七……——三、二……」刻一刻と迫り来るカウントダウンに、深呼吸を繰り返す。
「いーち!」
「っと、多田先輩。屋上の話、さっきしたんで何の脅迫にもならないっスよ」と額に脂汗をかきながら更衣室から顔を出す。
「どういうことだ?」
「俺が、岸さんのこと好きだって言ったんスよ」
「ね」と岸さんに同意を求めると、はにかみながら頷いてくれる。
(多田先輩には隠し通せる自信はねぇし、岸さんも同じだろうな)
多田先輩の父親感は尋常ではない。「お前ら。俺に堂々と言うあたり、覚悟はできてるらしいな」既に仁王立ちで腕組みまでしている多田先輩。
その隣で岸さんはもとより狭い肩幅を狭め、八島は心頭滅却をして得た平静をそのままに、多田先輩の前まで歩み寄る。
「だったら、更衣室はダメだろう」
連れ込んだのは八島だ。完全に八島に非があると自覚して、多田先輩の言葉を真摯に受け止める。
腕組みのまま岸さんに対しても「岸も受け入れるんだったら、TPOを弁えろ。な? 一応ここは私立中学だから、何の圧力をかけられるか分かったもんじゃないんだぞ」という。
「いえ、俺が勝手に嫉妬して暴走しただけなんで、岸さんは悪くないっス」
「付き合うんだったら、二人の責任だろうが」
「……多田は驚かないの?」
「自分で否定しなかったのになんだけどさ」と岸さんは多田先輩の器量のデカさに疑問を抱く。
デカすぎるだろ、と言いたいらしい。
「俺だって急に二人がそんなことになってたら驚きくらいするわ! ただ、俺は最初から知ってただけだ」
多田先輩は岸さんの髪をくしゃくしゃにして「アイツが一ヶ月もサボって屋上に逃げてた時、岸が話しに行っただろう? その日から八島の気持ちは知ってたんだよ」と嘆息を吐きながらいった。
「ったく、場所を考えろよ、って忠告してやったのに」
これには八島は「スンマセン」と陳謝するしかない。
「ただでさえ、チーム内の均衡を保つのに必死なんだよ。こちとら、篠田の操縦をしなきゃならないんだ、少しはチームのために協調性を持ってくれ、二年たちよ……」
「篠田は本当はいい子なんだけどねぇ」
「なんでああも頑なに岸に固執してんだか……。いや、たしかに俺と岸は同じポジションとしてライバルではあるけど、何も全て俺のセッターでと言うことは顧問もしないはずだ」
「篠田はそれも予想できる子だと思うんだけど——」
「あの!」
八島はたまらず話に割って入る。
「篠田の話を岸さんにしないでもらえますか」
「お、一丁前に言うなぁ」
「アイツの方が経験も技量も上なのは分かってる。だけど、俺だって役に立てるように努力してきたんスよ。今はまだ追いつけてないかもしれない。だけど、俺は多田先輩とコンビをとっている点では、アイツよりアドバンテージがあると思ってる」
八島は熱の籠った目でいう。「だから、俺はアイツよりも優れたスパイカーになります。そんで、多田先輩とも岸さんとも最高のタッグだと周りに見せつけます!」。
表情を和らげる多田先輩は「じゃあ、俺もできるようになった速攻のトスを打ってもらおうかな」と八島の肩に手を置いた。
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