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第7話

「けがは、ないみたいだね。警察は呼ばなくていい?」 「どうせ呼んでもオメガ絡みだとまともに相手にしてくんねぇから……って、あんたは誰」  不審人物ではないようだが、なぜそこに車をとめているのかという疑問は残っている。まるで誰かを待っていたかのように思えて、無意識に手のひらを握りしめた。  男は陽斗に近づいてくると、途中で足をとめ道路に落ちていた封書を拾いあげた。先ほど変質者と争った際に道路に落としてしまったものだ。宛名を確認して、整った眉をあげる。そして興味深そうにたずねてきた。 「どうして、君にはこの手紙はきていないの?」  いきなり不躾なことを問われ、羞恥にカッと顔に血がのぼる。それは自分が一番気にしていることだった。  ――こいつ、なんで俺のこと知ってんだ。  陽斗は男につかつかと歩みより、封筒を奪い取った。 「あんたにはカンケーねーだろっ。てか、何なんだよいきなり」  大きな声で怒るが、男は動じることなくやわらかく微笑んでいる。陽斗の反応を楽しんでいるかのようだ。悪びれる素振りもない。男が何者で、なぜそんなことを聞くのかわからなかった陽斗は、相手がただの意地悪な怪しい男にしか見えなくなった。 「ああ、じゃあやはり、君にはまだ発情(ヒート)がきていないんだな」  独り言のように呟き、笑みをさらに深くする。魅惑的な表情に、陽斗は後ずさった。  胸が不穏な鼓動を刻み始める。――この男は……。 「だからどこにも登録されていなかったんだね。おかげで探し出すのに三年もかかってしまった」 「……三年?」  眉根をよせると、男はごく自然な口調で告げた。 「そう。けれどやっと会えた。僕のオメガ」 「……」

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