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第12話
光斗のために雑炊の準備をしながら、陽斗はふと、さっきの男はもう帰っただろうかと考えた。
失礼極まりないアルファだった。白金髪 と銀灰色の瞳の、レア・アルファ。
この世界に存在するバース性。それは人類を三つの種に分類する。
その内の、一番優れた性であるアルファの中でも特に高貴さに磨きがかけられているのがレア・アルファと呼ばれる者たちだ。
遺伝的に優秀なアルファのみをかけあわせて作られる高位アルファで、ひそかに遺伝子操作もされていると聞く。それを取り締まる法律は今のところ存在しない。なぜならその恩恵を受けるセレブたちもまたアルファだからだ。
彼はレア・アルファに間違いない。レア特有の、天然のトウヘッドと銀灰色の瞳。人形めいた美しい見た目。
陽斗は今までレア・アルファはテレビでしか見たことがなかった。政治家や経済界の著名人、学者に芸術家。そんな雲の上の人たちの中にレアが時折まざっている。
彼らは自分たちオメガやベータとは何もかもが違う人種だ。その相手が、陽斗のことを『僕のオメガ』と呼んだ。
「ないない」
冷蔵庫からネギや卵を取り出しながら首を振る。
いくら彼が優れているからといって、フェロモンを発しないオメガを自分の番と判断できるはずがない。
「……いや、もしかして、できるのか?」
運命の番は、魂で惹かれあうとも言うらしいから。
「まさかな」
万一そうだとしても、発情期のないオメガは妊娠することがない。つまり、陽斗はベータと同じ扱いなのだ。そんなオメガに惹かれる奇特なアルファなどいるはずない。
陽斗はさっきの出来事を頭から追い払って、手早く夕食の支度に取りかかった。
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