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第14話
「僕の名前は、高梨唯一輝 。公開していない情報を教えるならば、君の運命の番だ」
「……」
「これはまだ秘密だけどね」
目を細めて微笑む姿は、この世のものとは思えない神々しい輝きを放っている。陽斗はまぶしさにクラリとした。
「じゃあ、もう一度しきり直しで」
高梨はその場で片膝をつくと、神妙に咳ばらいをしてから、花束をふたたび陽斗に差し出した。
「凪野陽斗君。どうか、僕と、結婚してください」
朗々と響く美声で、しかも公衆の面前で、いきなりプロポーズをしてくる。
「……な」
とっさのことに、理解が追いつかない。
「君のうなじが噛みたい」
言われてゾクリとした。電撃のような衝撃が背筋を伝う。そんな感覚は生まれて初めてで、陽斗は自分の反応に怖くなった。
オメガは、アルファにうなじのある部分を噛まれると、その相手だけにしか欲情しなくなるという特性がある。
オメガ特有の神経がうなじにはあり、それが傷つけられると刺激が脳の記憶領域に作用して、噛んだ相手の容姿を脳に刷りこむのだ。
同時に、他のアルファを拒否する身体に作りかえられる。オメガフェロモンが番にしか作用しなくなるし、番以外と身体をつなげようとするとアレルギーのような症状が出るようになる。
それを一般には『番契約 』と呼ぶ。だからオメガは不用意に欲情したアルファに噛まれないように、番が決まるまでは太い首輪をはめている。陽斗は自分の首輪に手をやった。
「な、何を急に」
高梨から距離を取ろうと数歩後ずさる。
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