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第15話

「どうか怯えないで」  男は優しく言いきかせるようにささやいた。 「昨日の夜から、僕は君のことばかりを考えて、おかしくなりそうだった。やっと出会えた君に拒否されたら、僕はショックで死んでしまうかもしれない」 「何を大げさな」  そう口では返すも、そいとげることのできなかった番が、自死をえらぶという話は珍しくはない。陽斗は相手が自分のせいで命を絶つようなことになったら大変だと、内心でうろたえた。番の絆はそれほど深い。 「けど、いきなり、そんな。番と証明されたわけでもないのに」 「証明?」 「そうだ。フェロモン型がマッチングするという科学的な証拠もないのに、感覚だけで判定するのはよくない。間違いだったらどうすんだ」 「僕に間違いはありえない」  そう言って、しかし男はふと眉根をよせた。 「もう番候補がいるのかい?」  瞳に蒼白い炎をやどらせる。それは嫉妬の炎だった。 「まさか」  陽斗は今まで誰ともつきあったことがない。身体はまっさらなままだ。アルファと番える可能性は諦めていたので、ベータの女の子とでも結婚できたらいいなとおぼろげに考えていた程度だ。オメガの男にも生殖機能はある。  陽斗が真剣な表情で否定すると、そこに嘘はないと感じ取ったのか、高梨が安心した笑顔になった。 「じゃあ、これから検査を受ければいい」 「フェロモンを分泌しないと、検査はできねえだろ」  そのフェロモンを陽斗の身体は作り出さないのだ。

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