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第16話

 高梨は陽斗の言葉にまったく動じる様子を見せなかった。自分の(かん)を信じきっている様子だ。 「君は検査がないと不安なの? 僕を見ても何も感じない?」 「……」  感じないことはなかったが、それが番を見つけたせいなのか、ただ単に人間離れしたレア・アルファの魅力に引きこまれたせいなのかは判断できなかった。真剣な恋も発情もしたことがない陽斗には難しい問いだ。  答えにつまった陽斗に、高梨は少し残念そうに、けれど慈しみをこめた微笑みを見せてきた。 「……じゃあ、プロポーズの返事は保留にするとして。君に見せたいものがあるんだ。それをぜひ、見にきてくれないか」 「見せたいもの?」 「そう。見るだけだから」 「今から?」 「できれば」  疑わしげな目を向けると、「心配しないで。君が嫌がることはしないよ」と言う。 「…………」  陽斗は相手を睨みながら考えた。  この男は、三年がかりで陽斗のことを探し出したと言っていた。自宅も知っているし、勤務先も知られている。  だったらここで断っても、またすぐにやってくる気がする。こんな大がかりな芝居じみたことを何度もされたらたまらないし迷惑だ。ならば大人しくついていって話を聞いてやるくらいならいいのではないか。誘拐されたとしても目撃者も多い。  この男は地位も高そうだし、自分の不利益になるような真似は安易にしないだろう。それに万一のときはこっちにも護身術がある。  そう判断した陽斗は、沈黙の後に、「……わかった」と答えた。

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