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第19話

「さあ、ここだよ」  高梨にうながされて、陽斗は車をおりた。彼の後をついてホテルの正面扉をくぐる。  しがない庶民の自分は足を踏み入れたこともない高級ホテルだ。大きなシャンデリアが飾られた広くて壮麗なホールには、外国人客もちらほら見られる。  高梨はフロントで何かを話し、カードキーを受け取って戻ってきた。 「さあいこう、こっちだよ」  陽斗にとっては一歩踏み出すのも(おそ)れ多い空間だが、高梨はまるで自分の家のように歩いていく。 「もしかして、ここ、あんたのホテル?」 「そうだよ。まだ半年前に建てたばかりなんだ」 「へぇ……」  すごすぎて声も出ない。高梨は陽斗を誘導して、鏡面仕あげ扉のついたエレベーターに乗りこみ、最上階のボタンを押した。 「ホテルの部屋に、見せたいものが?」 「そう。君のために用意したものさ」 「……」  陽斗は横に立つ男を警戒する目で見あげた。対する高梨は、まるでプレゼントを渡す人のように、ちょっとウキウキした表情をしている。この男は人形のような精緻な顔立ちをしているのに、中身は中々人間くさいようだ。  やがてエレベータは、涼しげなベル音を響かせて最上階に到着した。ワンフロアに数部屋しかないらしく、隣りあう扉の間隔がとても広い。その一番奥にある、ひときわゴージャスなつくりの両びらきドアを、高梨はカードで解錠した。 「さあどうぞ、中に入って」  扉を自ら手でおさえ、陽斗を先に部屋に入れる。  陽斗は何が待っているのかと用心しながらドアをくぐり抜けた。

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