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第25話

「僕の父は、非常に経営の才のあるアルファでね。一代で財を築いたんだ。けれど運命の番に出会うことはなかった。晩年、父は結婚することなく優秀なアルファ女性の卵子提供を受けて僕を作った。自分の財産と事業を守るために。ただ、それだけのために」  話し方は淡々としていて、そこに悲しみは感じられない。けれど何となく空虚な印象を受けた。 「僕は母親を知らない。彼女は僕に卵子を提供しただけだから。そして、父は僕を自分の都合のいいようにコーディネートして製作した」  高梨の声は平坦だ。 「コーディネート……?」 「そう。(あるじ)と決められた人間には決して逆らうことなく命令をきく、反抗的で攻撃的な因子を持たない大人しい子供を選択して作ったんだ。父は生前言ってた。数十個のアルファ受精卵を作って捨てて、その中からお前を選んだのだと」 「……そんな。そんなことが可能なの?」  高梨は小さく頷いた。 「知能や性格が遺伝子の構成要素に影響を受けるという研究は、ヒトゲノム解明の進歩と共に日々明らかになりつつある。今はまだ、その恩恵を享受しているのは一握りの人たちだけなんだけどね」  それが世界中の裕福なレア・アルファなのだろうと推察する。  たしかに同じ親から生まれた子供でも、兄弟によって性格は異なるのが普通だ。その中から、生まれる前に遺伝要素を見て取捨選択するとは。凡人には考えられない思考だった。 「レア・アルファに白金髪(トウヘッド)が多いのも、その特殊性を際立たせるためなんだ。天然でこの色は非常に珍しいから。そういう遺伝子を持ったアルファ女性の卵子を高額で購入する。僕らはいわば、親のエゴから作られた芸術品ってところかな」  高梨は白金色の睫をふせて続けた。 「そうやって作られた僕は、彼の望みどおりに勉学にはげみ、経営学を身につけた。しかし四年前、その主を病気で失って僕も生きる意味をなくした。命令する主人がいないと、路頭に迷うロボットのように」 「……」

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