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第32話
「……」
結局自分は流されて受け入れたのだ。イヤイヤと言いながら、彼と共に快感に溺れた。
陽斗は黙ってベッドをおりて、散らばっていた服を身につけた。
「帰るのかい? 朝食を一緒に食べようよ」
「光斗が心配だ」
服を整えると、ベッドを振り返り言った。
「わかった。終わったことはもう、どうこう言わない。俺も酒入ってたし、流されてた部分あるから。けど……」
陽斗は相手をじっと見つめた。
「けど俺、最初から最後まで、発情はしていなかった。フェロモン出てた自覚もない」
高梨が真面目な顔になって見返してくる。
「ほんのわずかだったからね」
優しく慰めるような口調だった。けれど陽斗はそれに傷ついた。機能不全オメガの精一杯の頑張りを褒められたようで、コンプレックスが刺激されてしまったのだ。
「帰る」
ドアに向かって歩き出す。
「また会いにいってもいいかい」
「俺のほうから連絡する。……必要があれば」
この男にイニシアチブを取られたくない。何だか同情されながら可愛がられている気がしてしまうから。自分はオメガだけれど、男だし可愛くなんて生まれてこの方なろうと思ったこともないし。
「わかった。待ってるよ」
鷹揚なところを見せられて、さらに気持ちが塞いだ。
親切にしてくれたのに、そんな自分の身勝手さにもうんざりする。
だから陽斗は振り返らずに、別れの挨拶もしないまま部屋を出た。
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