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第33話 残り香

◇◇◇  初めての相手だった。キスもそれ以上も。  陽斗は俯きながら家路を急いだ。  昨夜の出来事は、頭から追い出してしまいたい。雄の力を見せつけた高梨の官能的な姿や、それに甘く鳴いてしまった情けない自分も。  ごちゃごちゃした頭を整理できないまま、家にたどり着く。玄関の鍵をあけて中に入ると、すぐに光斗の部屋へと向かった。 「光斗、いる?」  弟は発情期もまだ終わっていない。一晩だけだけれど、ひとりきりにしてしまって可哀想なことをした。 『いるよー。入って』  インターホン越しに声がして、部屋の鍵があく。そっとドアをあければ、やはりまだ強いフェロモンの匂いがした。 「ごめん、帰れなくって」 「うん。大丈夫。この部屋にも冷蔵庫やポットはあるし、ユニットバスもあるし。適当に食べて寝てた」  「そっか」  昨日よりは楽になっているのか、光斗は上体をベッドヘッドに(もた)れさせて(くつろ)いでいた。その横にいって腰をおろすと、光斗が「あれ?」と言った。 「またアルファの匂いがするよ」 「え」 「今日はすっごいする」 「まじで」  ホテルでシャワーを借りるべきだったか。 「陽斗、もしかして。……恋人できた?」 「いやまさか」 「それで外泊を?」 「違う違う」 「ええ~。隠さないでよ。いいじゃん。教えてよ」 「……いや、ホント、違う。これは飲み会の席にアルファがいて、きっとそれでだよ。んで、酔い潰れて友達んちに泊めてもらってたんだ」  これ以上追求される前にと、嘘と本当のまざった言い訳をする。後ろめたさはあったが、光斗に高梨の話をする気にはなれなかった。

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