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第40話

「陽斗は昔から、毎月の発情期の世話に始まって、学校や外出先でフェロモン漏れの騒動が起きれば親代わりの呼び出しに応えて。……オレはバイトも満足にできない身体だから、生活費も頼りっぱなしで。そういう負担、陽斗にばっかり押しつけてさ。挙げ句、今日みたいな犯罪がらみで迷惑までかけて……」  陽斗は光斗を抱きよせた。 「発情は仕方ないことなんだ。気にすんな。お前は俺の自慢の弟だよ。頭の出来もいいし、性格も可愛いし。だから自信を持てよ」 「……陽斗」  光斗が、グスと鼻を鳴らす。事件のせいで不安定になっているらしい。 「大丈夫。いつもそばにいて守ってやるから。心配するな」 「ありがとう、陽斗」  服の袖で鼻頭を押さえながら光斗が礼を言う。 「陽斗がいてくれるから、オレ、こんな身体でも何とかやってこれてると思ってる。……感謝してるよ」  泣き笑いの顔で陽斗の肩に頭を乗せてきたので、その髪を撫でてやった。  そうしてふたり、夜道を歩いていく。 「……もし、番がいてくれたらさ」    青白い街灯の下、隣の光斗がぽつりと呟いた。  「え?」 「オレらにもしもアルファの番がいたら、もうちょっと安心できるのかな」 「そうだな、運命の相手が見つかれば。きっと、俺たちもこんなに不安で寂しい思いをしなくてすむのかもなあ」  光斗が夜空を眺めつつ、こがれるような声で囁く。 「運命の番かぁ……」  その人に守ってもらえれば。もう少し生活もメンタルも安定するかもしれない。  自分はともかく、光斗だけは早く相手を見つけてやりたい。番ができれば、フェロモンをまき散らすこともなくなるからストーカーだって興味を失うだろうし。  大切な弟の安全のために、自分に何ができるのだろう。  陽斗は夜空を眺めながら考えた。

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