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第42話

 陽斗は気持ちが沈んだまま、何となくスマホを操作して、指先が勝手に動くにまかせて高梨のSNSをひらいた。  そこには華やかな世界が広がっている。 「……いいよなぁ」  この人は。自分の好きな仕事に就けて。こんなにも立派に成功して。大金を稼いで、揺るぎない地位も得て。 「クソ」  腹立ちまぎれに、豪華な料理の載った写真に『イイね』を押してやる。陽斗のアカウントは取得したまま死に体になっているし、ハンドルネームも適当なのでわかるはずないだろう。  そしてスマホを放り出した。 「どうしよう。これから」  いつまでもバイトだけ続けているわけにはいかない。どこでもいいから派遣か正社員の道を見つけねば。一番稼ぎがいいのは夜の仕事なのだが、発情しないオメガでは価値もさがり気味だ。もしかしたらそこでも採用してもらえないかもしれない。  何もかもが、落伍者なのだな、と自分のことが嫌になる。何も持っていない自分。価値などなくて、存在する意味さえあるのかと憂鬱になる。一度負のループにはまると、抜け出すのはそう簡単にはいかない。厄介な心はドンドン下降していく。  そうして気がつく。自分は本来、とても気が小さくて臆病な(たち)だったのだと。気弱な性格が嫌で、強くなりたくて身体を鍛えたり、わざと粗野に振る舞ったりしていたのだ。そうやって自分を大きく見せて、自我を保ってきた。  今、その紙のようなペラペラの鎧が剥がされて、残ったのはイモムシみたいに小さくて弱々しい自分だけだ。  なんて情けない生き物なんだろう。自分という人間は。  陽斗はベッドの上で身を丸めて涙をこらえた。  仕事が見つからないくらいで泣くな。まずは光斗のことだろう。彼をちゃんと守らねば、と気持ちを奮い立たせる。自己暗示を懸命にかけていたら、しばらくして窓の外から、何か音が聞こえてきた。

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