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第44話

「それから、光斗が、駅でストーカーに襲われて、ホームから転落しそうになった」 「それは大変だ。怪我は?」 「……なかった。けど、犯人は逃げて」 「うん」  高梨の手が、陽斗の背中をゆるゆると撫でる。あやすような仕草に泣きそうになった。 「光斗のことが心配なんだ……。また奴がきたら、襲われたらって思うと、どうしてやればいいのか全然わかんない。仕事が決まらないから、警備会社にも入れないし、生活も不安定で……」 「そうか。わかった」  高梨が陽斗のつむじにキスをする。そうして、穏やかにささやいた。 「なら、僕に任せてくれればいいよ。全部、僕が解決してあげる」 「……えっ」  陽斗は顔をあげた。 「君に仕事を見つけてあげよう。それから光斗君にボディガードをつけてあげるよ。警備会社に頼んで家の周囲と通学を守らせれば、ストーカーも近づけなくなるだろう。何も心配することはない」 「え? けど……」  戸惑う陽斗に、高梨が優しく言う。 「わかってる。ただじゃ受け取れないよね。君の性格からすれば。だから、僕も条件を出そう」 「……条件」 「うん。条件だ。君は、僕が何を望むか、わかってるはずだから」  男の眼差しは優しかったが、虹彩の奥には強い意志があった。  陽斗は男の腕の中でブルリと震えた。それは怖じ気からだったか、歓喜からか。  高梨の望むモノ。それは――。 「……で、でも、俺は発情しない機能不全オメガだ。そんなオメガをモノにしたって……」 「気持ちの問題なんだ」 「え」  男の瞳がふと、真面目なものに変化した。

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