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第46話
「君の欲しいものをすべて与えてあげる。だから、君も僕の望むものをくれるかい」
「何を」
「君の発情。それが欲しい」
「……」
「条件はそれだけ」
「でも、でも」
そんなもの、どうやって。
「こうしよう。一ヶ月の間だけ、君を自由にさせてもらう。僕のやり方で、発情を引き出したい。発情すれば、君だってフェロモン型を調べることができる。型が合致すれば僕らは晴れて運命の番になることができるだろう?」
「けど、もし、ダメだったら」
「そのときは――」
高梨が陽斗の身体を自分から引き剥がし、顔を見あわせる体勢になる。
「やるだけやって、君を捨てるよ」
銀灰色の瞳には、感情がなかった。まるで人形のように。
「こっちは苦しいほど好きなのに、君は同じほど僕を好きじゃない。番になれないのなら、離れるしかないじゃないか」
冷淡に自分の愛を切り捨てようとする相手を見て、陽斗はさっき観た映像を思い出した。
あの中でこの人は、冷徹な指導者としての一面も見せていたではないか。もしかしてこちらのほうが、この人の本質なのか。
「どうする?」
陽斗は背筋を震わせた。
「俺が捨てられたら、光斗はどうなる?」
弟の話を持ち出すと、高梨はさらに表情をなくした。
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