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第53話 *

「君もオメガだから知っていると思うけど、オメガは体内に子供をもうける器官が存在する。オメガ宮という名称で呼ばれるものだ。普段はとても小さな、ウズラの卵のような形状をしていて、年頃になるとそこが熟れてフェロモン分泌腺を刺激するようになる場所だ」  高梨が横にあった小机を引きよせる。そうしながら話を続けた。 「成人しても発情しないオメガを研究した論文をいくつも取りよせて読んでみたところ、どうやらそのオメガ宮を刺激すれば、発情が誘発されるという結果を出した医師が何人かいた。メンタル面の不安定さから発情しないオメガにも成果があったと発表されていた」 「け、けど、その器官は、身体の奥にあって、刺激するって言ったって……」  机の上にあった鞄をあけると、そこには医療器具のようなものがいくつも並んでいた。シリコン製の管、ステンレス製の大小様々なマドラーのような棒。医療用ゼリー。   「オメガ宮そのものを刺激するんじゃなくて、前立腺のように、近くから刺激を与えるんだよ。それはちょうど、性器の下部、尿道の裏にあるんだ」 「……」 「つまり、尿道側から、ノックしてあげるんだね。快感で」 「……高梨さん」  相手を呼ぶ声が震えた。 「嫌だ、怖い……」  瞳に涙がたまる。何をされるのか、やっとわかってきた陽斗は、イヤイヤをするように小さく首を振った。 「お願い、やめて。他の方法をして。他なら何でもするから」  陽斗は前のめりになり、高梨に懇願した。それに高梨は冷酷に言った。 「君は僕の望むことを何でもすると言っただろう。そういう契約だったろ? 僕の望みはこれで、他の方法には興味がないんだよ」  穏やかに、けれどまるで人が変わってしまったかのように冷たく告げる。  もしかしてこの人は本当はとても残酷で、他人の気持ちの理解できない人間なのではないだろうか。そう思うと、背筋がガタガタとわななき始めた。 「そんな治療法は聞いたことないです。俺も医者にかかってるけど、そういう治療は勧められたことがない」

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