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第54話 *

「医者は普通は、薬による治療を勧めるらしいからね。僕は医者じゃないから薬は使えない。ああ、でもこの方法は医師免許がなくてもできる行為だよ。尿道を使ったプレイの範囲内だから」 「プ、プレイなの……?」  陽斗は首を横に振り続けた。 「じゃあ、やめるかい? 何もかもをなかったことにして」   高梨がわずかに首を傾げる。陽斗の出方をうかがう表情で、銀色の瞳を眇めた。 「……でも、やめたら」  光斗はどうなる。それに、自分だって、やめたらもう高梨に会うこともできなくなるだろう。発情も一生しないかもしれない。  それでもいいのか。  思い悩む陽斗の姿を、高梨は黙って見ていた。決して強要はせず、決定権は陽斗にあると言いたげに。  それは考えようによっては、彼の優しさのような気がした。やはりこの人は、心根のところは悪人じゃないのかもしれない。掴み所のない人だけれど、今までの言動から信用に足る人物だということは判断できている。  陽斗はあやふやな気持ちを切り捨て、覚悟を決めて高梨に身を任せることにした。どのみち選択権などないのだ。やると決めたのだから潔く受け入れなければ。 「わかった。ごめん。する」  短く答えて、ドッと背もたれに倒れこんだ。もうどうにでもしてくれといった心境だった。 「潔いね。やっぱり君は男らしいよ」  高梨がニコリと微笑む。そして陽斗の内腿に優しく触れてきた。 「痛いことはしない。絶対に」  安心して、というように撫でてくる。陽斗は目をそらせて頷いた。 「じゃあ、ちょっと待ってて。手を洗ってくるから」  高梨は立ちあがり、奥にあるバスルームへと消えていった。水の流れる音がして、しばらくすると手のひらを拭きながら戻ってくる。もう一度スツールに腰かけて、今度はアルコールで指先まで消毒した。

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